最近、ジャシンダ・アーダーン(元ニュージーランド首相)のリーダーシップを分析する記事を書きながら、「共感で人を動かす力」こそ、これからの時代のリーダーに必要な本質だと感じました。
https://fabiocaipirinha.com/archives/5598
恐怖や権威による指揮ではなく、人々の感情を理解し、共感をベースに主体性を引き出す。
その姿勢は、政治の世界だけでなく、大企業の経営にも通じます。
そんな折、日立製作所の東原敏昭氏が語る「全員キャプテン」という組織哲学に出会いました。
2016年にCEOに就任し、2022年に会長となった東原氏は、硬直した巨大組織を抜本的に変革し、日本企業が抱える課題と未来像を示しました。
この記事では、2025年1月のインタビューをもとに、東原氏の「共感型リーダーシップ」を深掘りしていきます。
1. 現場の声を聴く「ファクトファインディング」
東原氏はCEO就任前、現場社員への徹底的なヒアリングを行いました。
2009年、日立は7,873億円(約50億ドル)の赤字を計上。しかし、彼が見た問題の本質は財務ではありませんでした。
それは、終身雇用を前提に「沈黙を美徳とする文化」、そして「完璧主義による硬直化」――いわゆる“大企業病”です。
「机上のデータではなく、現場の“空気”を感じ取る力が必要だ」
東原氏はそう強調します。
2. 「3Qショック」を打ち破る組織改革
COO時代、事業部からの情報が年末になって突然「予算未達」と報告される「3Qショック」が続発。
これは、3Q(第3四半期=10〜12月)までは、各事業部が「予算達成できます」と報告してくる。ところが、年末を過ぎると突然「やはり不可能」と覆る。
これは単なる数字の問題ではありません。
「問題を正直に報告すれば叱責される」という恐怖文化が、組織を沈黙させ、意思決定を致命的に遅らせる――これこそが本質でした。
「情報が歪む組織は、判断が鈍る」
この「歪み」を正すために、東原氏はまず 「情報の透明化」を最優先課題に据えます。CEO就任後、東原氏は1兆円規模の社内カンパニー制を解体し、2000~3000億円規模の小型ユニットへ分割しました。
さらに、顧客接点に直結する「フロント」部門と、全社横断のデジタル基盤「Lumada」を設立。
「小さくして、速く動く」という意思決定を可能にしたのです。
3. 外の視点を入れたガバナンス改革
取締役会の構成も大胆に変えました。
2011年当時、13人中4人が社外取締役でしたが、現在は9人が外部人材。
これにより意思決定のスピードと客観性が向上しました。
「大胆な行動を取るためには、外の視点と内部のスピードが欠かせない」
4. 共感型リーダー育成
東原氏は2017年から毎年300人と面談し、50人を次世代経営人材として選抜する取り組みを続けています。
彼が重視するのは、「共感力」と「チームを束ねる力」。
2023年WBCで栗山英樹監督が掲げた「全員がキャプテン」というチーム作りを例に出し、こう語ります。
「強い個人より、強いチーム。共感で組織は動く」
5. 日本企業へのメッセージ
東原氏の改革は、日本型経営の弱点とされてきた「遅い」「硬直的」という神話を打ち破る試みです。
彼が示したリーダー像は、
• 現場を観察する「聞き役」
• 組織を動かす「改革者」
• 共感を軸に人を育てる「教育者」
の三つを兼ね備えています。
おわりに:あなたも“キャプテン”になれる
「全員がキャプテン」という言葉は、私たちの日常にも通じます。
誰かの指示を待つだけでなく、自分がチームを動かす主体者であるという意識。
東原氏の言葉は、私たちにこう問いかけているようです。
「あなたもキャプテンになりますか?」
出典:
Leading Hitachi: Transforming tradition (2025年1月13日、McKinsey & Company)
https://www.mckinsey.com/featured-insights/future-of-asia/leading-hitachi-transforming-tradition