ボストン大学社会学部准教授、および女性学・ジェンダー・セクシュアリティ研究プログラム准教授 Ashley Mears (アシュリー・ミアーズ) 氏による本作は、発売当初から大きな話題となっていて、いずれ読まなければと思っていた。
ようやく最近、ざっとだが読むことができた。
楠木建先生が、ご自身のブログで2022年に読んだ本の中のNo.1に推しておられたので、読むのを楽しみにしていた。
本書は一言でいえば、パーティーサーキットの舞台裏に潜む、煌びやかな(ただ隠れた)世界で暗躍する、プロモーターと呼ばれる、会場を押さえ、金持ち連中と美人モデルを引き合わせる、現代版のグローバル「幇間」の人たちの話。
世界的なエリートや富裕層が交流し、社会的な地位を確立しようとする姿をリアルに描き出し、そのダイナミクスに光を当てる。
富の象徴(必ずしも富そのものではなく)を極端に追い求めた先に何があるのかを示す一冊となっている。
単に金持ちの道楽やら放蕩にスポットライトを当てるのではなく、新鮮な学びとなった。
名著。
著者のミアーズ氏は、自身がモデルとして経験したことを元に、この煌びやかで隠れたコミュニティ内部に深く入り込み、その真実を明かしていく。
(美貌は下の写真のとおり)
なんでも、2011年から2013年の間の18カ月をかけて、ニューヨークで100晩以上にわたって17カ所のクラブに出かけたのだとか。
「たいていは夜10時に無料のディナーから始まり、午前3時か4時まで一晩で3軒か4軒のクラブをはしごすることもあり、たまには朝の8時過ぎまで2次会が続くこともあった。」(P. 331)
海外も含めて、VIPの集まる場所への招待も4回受けたという。
マイアミで5日間、サントスとハンプトンズで週末を2回。カンヌとサントロペで1週間。
こうしたVIPパーティーの場合、女性にはふんだんな量のアルコールとドラックが無料で供給される。
ただ滞在費用も含めてプロモーターやクラブ、クライアントが手配し、支払ってくれるという。
内容もさることながら、とりわけ私が興味深く読んだのは、最後の「研究補遺」の部分。
研究対象となった44人のプロモーターたちについて触れているところだ。
「プロモーターの各層を分類すると、研究対象者はほとんどが男性(n=39)で、5人が女性だ。44人のプロモーターのうち半数以上が意味だ(n=25)。民族的にも人種的にも多様で、3割以上が黒人、白人アメリカンはわずか8人。多くが複数の言語を操り、外国のクライアントやモデルとも会話ができる。彼らの年齢は20歳から45歳までで、平均年齢は30歳。44人中28人が大学に行ったことがないか、入ったものの卒業していなかった。19人は自分が貧しいか下位中流階級の出だと言い、上位中流階級あるいは裕福な家庭の出だといったのはわずか8人だった。」
プロモーターとして活動する彼らに、それぞれの将来の目標を聞いていて、内訳は下記の通り。(P. 332)
飲食業界のオーナー19人
クリエィティブ分野9人
企業間取引(B2B)6人
PR/マーケティング 5人
不動産5人
大富豪やセレブが楽しめるように、ハコを押さえて美女を用意して、世界中を飛び回って、気疲れするパーティーを取り仕切って、盛り上げて、、、。
そんな日々を送る彼らの将来の目標が、、、飲食業界のオーナー、、、。
ここになんだか哀しみを感じた。
哀しみとともに、、
人と接することが得意な部分と、自らの出自に関わらず、ささやかでも一国一城の主になりたいという彼らの願望に、普段仕える富豪レベルとは言わずとも、手に届く範囲で「いつかは自分だって」、、、という、なんだか哀しくも、たくましい、気概みたいなものが感じられるのは、私だけだろうか。
ただ見方によっては、今後AIがいかに発達しようがテクノロジーによって代替されたりすることもなく、高等教育の学位が必要とされるわけでもなく、自らのコネと才覚でグローバルに生き抜く彼らの仕事こそ、(それこそ昔の「幇間」が活躍していたころから)、時代に淘汰されない職業といえるのかもしれない。
参考:https://www.msz.co.jp/book/detail/09028/