個人が自らの手で書き、編集し、出版した本を一冊ずつ手売りする――そんな文学の即売会です。
場所は東京ビッグサイト。
会場は熱気に包まれていました。

元々は少し覗くだけのつもりでした。
でも一歩足を踏み入れてみると、その多様な世界にすっかり魅了され、気づけば何冊も手にしていました。
noteの書き方指南書、私の生まれた街サンパウロを舞台にした私小説、大手出版社が出していた雑誌のバックナンバー、韓国映画や世界文学について語った本などなど、どれも素敵な“発掘”でした。

中でも、ひときわ印象に残ったブースがあります。
そこには、机の上にふかふかとした毛皮が広げられていました。大型の獣のものでした。
通りがかった私に「ちょっと触ってみませんか?」と声をかけてきたのは、若い男性でした。
聞けば、それはクマの毛皮だといいます。しかも、なめす前と後、両方。
話してくれたのは、自分は“マタギ”になりたくて秋田に移住したこと、実際に狩猟をしていること、クマの皮を革製品にしていること。
そして、自然と向き合いながら暮らす中で感じたことを書き綴った本を出しているということでした。
その語り口は、熱すぎず、距離をとりすぎず、ごく自然体。
私は思わず2冊買っていました。
1冊はクマの解体と皮の利用について。もう1冊は、マタギとして生きる中で得た生活の哲学について。
どちらも朴訥とした文体で、嘘のない良い本でした。
それとひとつ、学んだことがあります。
3000を超えるブースが並ぶ中、自分の作品に目を向けてもらうにはどうすればいいか――ということ。
このマタギ青年は、意識してかせずか、まず“毛皮”という触覚に訴えるオブジェを置き、そこから自分の人生を語る導線を見事に設計していました。
商品そのものの説明よりも、まず「感じてもらう」。
それが功を奏していました。
ブースを離れるときに、
「森でクマと対峙するのは、やっぱり怖いものですか?」と聞いた。
「はい、何年やっても一向に慣れません」
その言葉がずっと心に残っています。◾️