10位から1位までをご紹介します。
気候ディストピアから彼女独特の詩の世界まで、その多彩な創作世界をお楽しみください!
(特に日本語訳はいずれも名訳ぞろい、とてもありがたいことですね!)
第10位 『誓願』
原題:The Testaments(2019年)
『侍女の物語』の続編として30年以上ぶりに発表された本作は、ギレアデ共和国のさらに深い闇を描きます。
TVドラマ版の大成功と、現実政治の動向が重なり合い、原稿のハッキング事件まで起きるセンセーションを巻き起こしました。
アトウッドは本作で2度目のブッカー賞を獲得しています。
第9位 『オリックスとクレイク』
原題:Oryx and Crake(2003年)
致死的パンデミックに見舞われた世界を舞台に、最後の生存者スノーマンと、遺伝子操作によって生まれた“ピゴーン”と“クレーカー”を描くディストピア三部作の序章。不穏なユーモアと科学への鋭い批評が鮮烈です。アトウッド自身も「人類滅亡後の冒険小説」と評しています。
第8位 『語りなおしシェイクスピア 1 テンペスト 獄中シェイクスピア劇団』
原題:Hag-Seed(2016年)
シェイクスピア『テンペスト』を、カナダの刑務所劇団という舞台にリライト。
元芸術監督フェリックスが娘ミランダを失った悲しみを胸に、受刑者たちと共に復讐劇を演じます。
原作を三度読み返し、さらに逆順にも読み込んだという執念が物語の随所に光ります。
第7位 『食べられる女』
原題:The Edible Woman(1969年)
24歳の処女長編。消費主義と男性中心社会を「象徴的な食人」のモチーフで風刺したプロト・フェミニスト作品です。主人公の女性が次第に“食べられる”恐怖に囚われていく描写は、今日のジェンダー論にも響く普遍性を持ちます。
第6位 『昏き目の暗殺者』
原題:The Blind Assassin(2000年)
「戦争終結後10日目に、姉ローラは車で橋から転落した…」という衝撃的な一文から始まる大河ドラマ。
82歳のアイリス・チェイスが語る家族史と、物語内小説との三重構造が巧みに絡み合います。
多彩なジャンルを横断し、アトウッド初のブッカー賞をもたらした傑作です。
第5位 『Paper Boat: New and Selected Poems: 1961-2023』
原題:Paper Boat: New and Selected Poems 1961–2023
16歳の秋に詩作に目覚めたアトウッドの、60年以上にわたる詩業を一冊に凝縮。青春の問いから、伴侶グレーム・ギブソンの死後に紡がれた悲嘆まで、「最も喜びに満ちた表現」としての詩の力を実感させます。
第4位 『Burning Questions: Essays 2004–2021』
原題:Burning Questions: Essays 2004–2021(2022年)
環境問題、民主主義、女性の権利などの緊急課題を論じたエッセイを40篇以上収録。
背骨をいたわる書き方講座からワニの逃げ方指南まで、知性とユーモアが同居するアトウッド流エッセイの真髄を味わえます。
第3位 『またの名をグレイス』
原題:Alias Grace(1996年)
1843年のトロントで実際に起きた殺人事件をモチーフに、召使いグレイス・マークスの無罪と有罪を揺さぶります。
権力、記憶、歴史の〈真実〉の危うさを問う語り口は、#MeTooムーブメントとも呼応しました。
第2位 『キャッツ・アイ』
原題:Cat’s Eye(1988年)
「少女は砂糖とスパイスでできてはいない」という言葉通り、思春期の女の子たちの陰湿な力学を抉り出す自伝的長編。
田舎から都会へ転校した主人公エレインと、“意地悪な”友人コーデリアの確執を通じ、成長の痛みと権力構造の残酷さを鮮やかに描きます。
第1位 『侍女の物語』
原題:The Handmaid’s Tale(1985年)
アトウッドの代表作にしてフェミニズム・ディストピア文学の金字塔。
女性を奴隷的に「生殖の道具」とみなす全体主義国家ギレアデを描き、現実の社会問題を鏡写しにします。
「想像の庭には、本物のヒキガエルを」という言葉通り、物語のリアリティが恐怖を増幅させます。
まとめ
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多様なジャンル横断
アトウッドは、ディストピア小説から歴史ミステリ、詩集、エッセイ集、さらにはシェイクスピアのリライトまで、幅広いジャンルで卓越した創作を続けてきました。
その背後には、「物語」を通じて社会や人間の核心に迫ろうとする一貫した姿勢があります。 -
フェミニズムと権力批評の重層性
『侍女の物語』や『誓願』、『食べられる女』に象徴されるように、女性の身体性や権利、権力構造の可視化はアトウッド作品の根幹です。
しかしそこに留まらず、権力の暴走や記憶の揺らぎを扱う『昏き目の暗殺者』や『またの名をグレイス』などでは、より複雑な人間ドラマとして──読む者自身が問い続ける余地を残しながら──語られます。 -
現実への鋭い鏡写し
アトウッドが「想像の庭に本物のヒキガエルを置く」と語るように、彼女の描く世界はしばしば現実の延長線上にあります。
気候変動と科学技術への警鐘を鳴らす『オリックスとクレイク』、権威主義への警戒を促す『侍女の物語』など、ディストピア作品のリアリティは決して過剰なフィクションではありません。 -
言葉への信頼と遊び心
詩集やエッセイ集に見られるように、アトウッドはユーモア、ウィット、直言を自在に操ります。
硬質なテーマを扱いながらも、読む者の心を解きほぐす遊び心が、彼女の文章を親しみやすくしている一因です。 -
回想録への期待
長年にわたる創作の軌跡を踏まえると、アトウッド自身が語る“物語の源泉”を知る回想録は、これまで以上に貴重な一冊となる気がします。
これら10作品は、社会問題を投影する鏡であり、同時に言葉の喜びを再確認させてくれる“知の冒険”でもあります。
本ランキングをきっかけに、まずはベスト10作品でその“問い”を受け止め、次いで近く出版される回顧録で著者自身の言葉と向き合う──そんな読書体験も素敵かもしれません。■
オリジナル記事:
Margaret Atwood’s 10 best books – ranked!
https://www.theguardian.com/culture/2025/may/19/margaret-atwoods-10-best-books-ranked