昔から、野心ある若者の進路は決まっていました。

ステップ1:大学へ行く
ステップ2:卒業して就職する
ステップ3:安定を得る

しかし今、その方程式は崩れつつあります。

アメリカでは、22~27歳の大学卒業者の失業率が、史上初めて全国平均を上回りました。EU、イギリス、カナダ、日本も同じような傾向にあるようです。

たとえばアメリカのスタンフォードMBA卒。2024年卒業生のうち、3ヶ月以内に職を得たのは5人に4人だけ。2021年の9割から大きく減少しています。
大卒プレミアム(学歴による賃金上昇効果)も縮小し、仕事への満足度も低下しています。

 

なぜこんなことが起きているのか

まず指摘されているのが、大学の大衆化で学位のブランド力が落ちたこと。ITスキルが一般化し、大学で学ぶ必要が薄れたこと。
それに法曹界、金融、官僚といった学歴エリートを吸収してきた業界が停滞していること。アメリカの弁護士数は過去20年でほぼ横ばい。2008年の金融危機後、金融業界の採用も減少、官僚も待遇面で魅力を失っています。

 

AIは原因ではなく加速装置

ここが興味深いのですが、AIがこの変化を生んだわけではないようです。様々な調査によると2010年代からこれらの兆候はあったとされています。
でもAIはこの流れを確実に加速させるといわれています。若者や未経験者向けの仕事はどうしても自動化されやすい。
だからこそこれからは、「同級生にどう勝つか」だけでなく「自分の価値がAIとどう異なるか」を考えなければならなくなります。
そしてこれは若者だけでなく、これからは全世代に突き付けられた問いでもあります。

 

フリーランス化する社会

Forbesによれば、2027年までにアメリカのプロフェッショナルの半数以上(8600万人超)がフリーランスになると予測されています。フリーランス雇用は2年間で260%増加Forbes Japan)。
伝統的な雇用モデルは機能不全に陥りつつあり、多くの人が数カ月応募しても音沙汰なしという現実に直面しています。AIによる代替、大量解雇、そしてオフィス出社義務化によってリモートワーク希望者が職を失うなど、労働市場の競争はさらに厳しくなっています。

かつて「雇われずに生きる」というスタイルは、自由選択の贅沢でした。
しかしこれからは、誰もが考えざるを得ない現実的な働き方になると見られています。

 

エリートの過剰生産

歴史学者ピーター・ターチンは「エリート過剰生産」の危険を指摘しています。
社会が必要とする以上のエリート候補を生み出すと、行き場を失った彼らが不満を溜め、社会不安や革命につながる。19世紀フランスでは、高等教育を受けた人々が増えすぎ、彼らの多くが社会で役割を見出せず革命へと向かったとされています。

こうした構造は現代にも見られます。
例えばアメリカでは、本来なら安定したキャリアを築くはずだったペンシルバニア大学(UPenn)卒業のルイジ・マンジョーネが、現在、健康保険会社幹部の殺害容疑で裁判にかけられています。
ターチンの理論で言うところの「カウンターエリート」、つまり行き場を失い社会秩序に挑戦する存在の現代的事例といえるかもしれません。

日本でも、中央省庁や優秀企業を率いる一部のエリート層とその他大勢の役割がより固定化されていく可能性があります。フランスで言えば、グランゼコール出身者が政治・行政・企業トップを独占するようなモデルです。

 

それでも、学びを手放さない

けれど、私は思います。
仕事に直結しないからといって、学びを切り捨てるべきではない。
仕事につながらなくても、自分が本当に学びたいことを学ぶ。
そうしてこそ、社会には文化的・哲学的・倫理的な多様性が生まれ、人間らしさが保たれるのではないでしょうか。

 

これから問われること

就職の現場で学歴が通用しなくなる時代が来つつあるのでしょうか。もちろん、価値が全く評価されないといったことにはならないとは思います。
ただ競争の形は変わってくるでしょう。
これからは「同級生に勝つ」でもなく、「AIに負けない」、でもなく、「自分だけが出せる価値」を問い続けることが唯一の解答になるのかもしれません。
そしてそれは待つのではなく、自分で仕事を作り出す力を持つということになるのだと思います。■

 

出典: