「時間を支配するものが、人生を支配する」

 

タイムマネジメントにおける一番重要なコンセプトがこの有名な言葉だろう。

有限の資産だからこそ上手に活用したい、誰しもがそう思う。

 

本書は時間の使い方について説く本でありながら、この点に真っ向から立ち向かう。

曰く「時間を支配すようとする態度こそ、僕たちが時間に苦しめられる原因である」と。

 

冒頭、ひとりの人間に与えられた時間は、4,000週間だと説明される。

巷にあふれ得るライフハック的時間術は根本的な問題解決にはならないとばっさり。

時間術何某の小手先のスキルやテクニックよりも、まず気づかなければいけない重要なことがある、それは、この宇宙の中に存在する自分というちっぽけな存在を直視し、受け入れること。

 

あれもこれもと、達成不可能な基準を自らに課すのではなく、純粋に自分に与えられた時間をそのまま味わうことこそが大切なのだという。

 

「宇宙を動かすという神のような幻想から地面に降り立ち、具体的で有限な人生を、ありのままに体験しよう」

 

自分はまだまだ若い、本当にやりたいことに取り組むのはまだ人生の先でいいと考えている若い人。

あるいは、最近やたらと時間の流れが速く感じられるようになった、もう年末かぁ、と感じる中高年。

 

いずれの層にもこの本はおススメだ。

 

この一年を振り返って自分が何に捉われていて、何が未着手なのかをゆっくり考えるに最適の一冊だった。

 

現実をありのままに受け入れることで、より大きな充実感を得られるとし、最後に「有限性を受け入れるための10のツール」を紹介している。

 

抜粋して紹介する。(P. 274 ~)

 

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1.「開放」「固定」のリストをつくる
何かを捨てることは避けられないという前提に立ち、うまく選択することに集中した方がいい。

取り組む仕事を絞り込むための戦略はいろいろある。

もっともシンプルなやり方は、やることリストを「開放」と「固定」の2種類に分けることだ。

 

 

2.先延ばし状態に耐える
やることが多すぎて不安なとき、人は同時にいろいろなことに手をつけてしまいがちだ。

なんだか仕事をしている気がするかもしれないけれど、それでは何も前に進まない。

それよりも、多くのことを先延ばしにした状態に耐える力をつけた方がいい。

 

 

3.失敗すべきことを決める
人の時間とエネルギーには限りがある。

だから、思うようにできないことがあるのは当然だ。

失敗は避けられないと思った方がいい。

大事なのは戦略的に失敗することだ。

これは、完璧なワークライフバランスを追い求めるよりも、バランスを崩すことをあえて受け入れる生き方だ。

 

 

4.できなかったことではなく、できたことを意識する
何もかもをやり遂げようとする旅には、終わりがない。

必然的に、落胆したり、自己嫌悪に陥ったりしがちだ。

小さな勝利を経験すると、モチベーションが上がる。

これは科学的にも証明されていることだ。

小さな勝利を祝い、積み重ねていくうちに、やがてもっと大きな成果がついてくる。

 

 

5.配慮の対象を絞り込む
SNSは、まちがったことを気にするように仕向ける巨大な機械だ。

SNSの戦略に惑わされず、自分が配慮すべき問題を意識的に選びとろう。

本当に変化をもたらすためには、自分の限りある配慮を集中的に注がなくてはならないということだ。

 

 

6.退屈で、機能の少ないデバイスを使う
まず、SNSのアプリを削除する。

可能ならばメールアプリも削除しよう。

そして画面表示設定をカラーからグレーススケール(白黒)に変更する。

機能がなるべく少ないデバイスを使うのも賢い選択だ。

可能なら単一機能のデバイスを選ぼう。

たとえばKindle 電子書籍リーダーは、本を読むという目的に特化して作られている。

不便だからこそ、集中が深まるのだ。

 

7.ありふれたものに新しさを見いだす
年齢を重ねると、時間の経過が速くなる。

人生の残り週が少なくなるほどに、その減少速度も加速していくように感じる。

ありふれた一瞬一瞬にもっと注意を払うこと。

いつもと違う行動をするのではなく、すでにある人生に深く潜り込み、日常の内側に新しさを見つけるという意味だ。

瞑想はそのために役立つツールだ。

それだけでなく、気まぐれに散歩をしてみたり、いつもと違うルートで通勤してみるだけでも日々の体験は深まるだろう。

 

8.人間関係に好奇心を取り入れる
他人と一緒にいるかぎり、予測不可能なことは避けられない。

だから、好奇心を味方につけたほうがいい。

好奇心を持っていれば、相手の行動を自分の基準で判断せず、ニュートラルに受け入れることができるからだ。

逆に好奇心を持たず、相手が「こうすべき」と考えていると、つねに失望や苛立ちを感じることになる。

 

9.親切の反射神経を身につける
瞑想家のジョセフ・ゴールドスタインが勧めるすばらしい習慣がある。

それは、他人に親切にしたいと思ったとき、即座に実行してしまうことだ。

たとえばお金を寄付しようか、友人に連絡してみようか、誰かの仕事をほめようか、などと思いついたら、後回しにしないですぐにその場で実行する。

親切な行動は、自分自身を確実に幸せな気分にしてくれるからだ。

 

10.何もしない練習をする
「人間の不幸はすべて、一人で部屋にじっとしていられないことに由来する」と、哲学者ブレーズ・パスカルは言った。

自分の4000週間を有意義に過ごすためには、「何もしない」能力が欠かせない。

何もしないことに耐えられない場合、単に「何かしないと気がすまない」という理由で、まちがった時間の使い方を選んでしまいがちだ。

シンゼン・ヤングが勧めるのは「何もしない瞑想」だ。

何もしないことができる人は、自分の時間を自分のために使える人だ。

現実逃避のために何かをするのは、もうやめよう。

 

心を落ち着かせ、自分だけの限られた時間を、じっくりと味わおう。

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■『限りある時間の使い方』 オリバー・バークマン /著 高橋 璃子 /訳 

https://kanki-pub.co.jp/pub/book/details/9784761276157