先日、バチカンのシスティーナ礼拝堂から白煙が上がり、新しいローマ教皇が選出されました。広場に集まった何千人もの人々が歓声を上げ、世界中のニュースがその瞬間を報じました。
私自身、昨年ヴァチカンを訪れて前教皇の説教を現場で聞いたりもしているので、カトリック総本山の動きはとても関心の高い分野です。
詳しくはこちらもご参考ください。
今朝、The Economist のポッドキャストを聞いていたら、ちょうどこの新しいローマ教皇についての特集が流れてきました。
新教皇についての詳しい解説があり、とてもわかりやすかったので、ここでも少し整理してご紹介したいと思います。
⚫︎ 「Habemus Papam(我らは教皇を得たり)」
今回選ばれたのは、ロバート・フランシス・プレヴォスト枢機卿。アメリカ・シカゴ出身で、長年ペルーで司牧活動を行ってきた方です。
現在はペルー市民でもあり、教皇としての名前は「レオ14世」と名乗られました。
⚫︎ フランシスコの後継? それとも…
新教皇の登場は、フランシスコ教皇の路線をどう引き継ぐのか、あるいは変化をもたらすのか、という関心とともに受け止められています。
興味深いのは、最初の登場シーンです。
フランシスコ教皇が質素な白衣姿でバルコニーに現れたのに対し、レオ14世は伝統的な教皇のローブをまとっていました。
こうした装いの違いには、「伝統」と「現代性」のあいだをどう橋渡しするかという、彼のスタンスがにじんでいるように感じます。
レオ14世は、カトリックの中で対立する伝統主義者と進歩派のあいだに橋をかける存在として期待されています。
強く改革を進めるタイプではないけれど、マイノリティや移民への共感を大切にする、柔らかな包摂性があるようです。
そしてもう一つ、注目すべきなのが「レオ14世」という教皇名の選択です。
この名前は、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した教皇レオ13世にちなんでいると見られています。
レオ13世は、近代社会との対話を試みた教皇であり、1891年に発表した回勅『レールム・ノヴァールム』は、労働者の権利や社会正義について初めて本格的に言及した文書でした。

この文書は、今日のカトリック社会教説の礎ともされており、伝統に立脚しつつも、変わりゆく世界との橋をかけようとしたレオ13世の姿勢を象徴するものです。
レオ14世がこの名を選んだ背景には、自らもまた「変化する世界にどう向き合うか」という問いに、誠実に応えようとする意志が込められているのかもしれません。
⚫︎ まさかのアメリカ人が教皇に?
意外に思われた方も多いかもしれません。
実は、長らく「アメリカ人が教皇になることはないだろう」と言われてきました。
アメリカという国の地政学的な影響力があまりに大きいため、宗教的な頂点にその出身者を据えることには慎重な声が多かったのです。
それでも今回、教皇に選ばれたということは、彼が単なる「アメリカ人」ではなく、国際的で世界市民的な存在だと受け止められている証かもしれません。
また、彼が移民政策に関してアメリカ政府を批判してきた過去にも注目が集まっています。
副大統領や大統領に対して、直接あるいは間接的に批判的な言動をしているという報道もありました。

これは、信仰のリーダーとして政治とは一定の距離を保ちつつ、道徳的な立場から意見を表明するという教皇らしい振る舞いともいえます。
一方で、同性婚や女性の聖職者登用には慎重な立場をとっており、進歩的すぎるわけではないという点も特徴的です。
まさにバランスの人、という印象。
⚫︎ 新教皇の“最初の仕事”
さて、新しい教皇が就任した日、最初に机に積まれていた課題は何なのでしょうか。
まずは、象徴的な問題として「どこに住むのか」があります。フランシスコ教皇は、格式高い教皇宮殿ではなく、質素な宿舎で暮らす選択をしました。
レオ14世がどちらを選ぶかによって、彼がどんな教皇であるかの印象が変わってくるかもしれません。
そしてもちろん、現実的な課題も山積みです。バチカンの財政は厳しく、聖職者による性虐待問題も根深く残っています。
彼自身が過去に対応を誤ったと批判されたこともあり、誠実かつ迅速な対応が求められています。
また、教会の運営方針についても問われています。
フランシスコ教皇が進めた「地方分権化」をどう引き継ぐのか。
そして、世界各地の紛争に対して、教皇としてどのように平和への橋をかけていくのか——これも非常に大きなテーマです。
⚫︎ まとめ:言葉ではなく、行動で示すとき
新教皇は、登場の瞬間にこう語りました。
“To all the people, wherever they are, to all the peoples, to the whole Earth, Peace be with you!”
「世界中の人々へ。地の果てまでも。平和があなたと共にありますように。」
この言葉をどう実現していくかが、これからの数年で試されることになるのだと思います。
ローマ教皇という存在は、単なる宗教指導者を超えて、世界にメッセージを発信する象徴でもあります。
教皇レオ14世が何を語り、何を語らないのか。
そして、どんな人々に手を差し伸べるのか——
私たちはそこから、今の世界が抱える問題と、そこに希望があるかどうかを見つめ直すことになるのかもしれません。◾️
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※この記事は、2025年5月9日に配信された The Economist のポッドキャスト番組「In Pope Leo XIV, the Catholic Church chooses a middle path」に基づいて執筆しています。
リンク:https://www.economist.com/podcasts/2025/05/09/in-pope-leo-xiv-the-catholic-church-chooses-a-middle-path
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