マルクス・アウレリウスの生涯を紐解く:ストア派皇帝の言葉の背景を探る

ローマの皇帝マルクス・アウレリウスについての良書。

マルクス・アウレリウスの熱心なファンであれば、彼の言葉や『自省録』の格言に自然と惹かれる。

ただ、彼が生きた激動の時代背景に思いを馳せることは少ないかもしれない。

 

本書は、そんな彼の言葉が生まれた背景や、当時のローマ帝国が直面していた危機の数々を丁寧に解説する。

アウレリウスの『自省録』が単なる哲学的な思索ではなく、激しい指導者としての日々の中で生まれた応答であることを示し、より深い理解を与えてくれる一冊。

まさに『自省録』をより深く理解するためにも読むべき一冊。

 

下記に印象に残った部分を抜き書きしておく。

 

P. 184

 マルクスは、帝国住民の安寧のために働こうと努力した。しかし、その治世において、彼は疫病大流行、戦争、反乱に遭遇し、危機的状況の中でただ懸命に皇帝の職務に励むことしかできなかった。哲学の理念や政体の思想を目指してではなく、先帝アントニヌスの範に従って懸命に働くこと、それが彼の生き方であったといってよいのではないか。

 「働け、みじめな者としてではなく、人に憐れまれたり感心されたりしたい者としてでもなく働け。ただ一事を志せ、社会的理性の命ずるがままにあるいは行動し、あるいは行動せぬことを。」(第9巻12)

 若き日から帝国統治に高帝位継承予定者として関り、即位後は20年近くも最高責任者としての日々を送ったマルクスは、人々の「自由」を実現するため懸命に努力を尽くしたが、自分自身は思索の中でしか「自由」を得ることができずに終わったのである。

 

こう考えると、次々と目まぐるしく襲ってくる国家的危機に対してどう対処するかのよすがにストア哲学に傾倒していった様子もわかる。

 

アウレリウスの『自省録』とは、苦難の中で鍛えられた哲学だったことがよくわかる。

マルクス・アウレリウス 『自省録』のローマ帝国
歴史学の手法と観点から、『自省録』の時代背景を明らかにすることで、哲人皇帝マルクスの実像に迫る。