言わずと知れた、日本を代表する漫画家の発想術。

 漫画を描くこと、発想との向き合い方など、創作について書かれたエッセイをまとめた薄めの本。

 薄いけどとてもためになる。

 とにかく描いて描いて描きまくれ。

 

 以下、抜き書き。

 P. 176 

 「下手な鉄砲も撃ちゃ当たる」ということわざがあります。たとえデタラメでも、バンバン撃ちまくっていれば、そのうち当たるという無責任な言葉ですが、ある意味では事実も伝えています。

 新作のまんがに取りかかるとき、誰でも「今度こそ大傑作を描くぞ!!」と意気込むのですが、さて完成してみるとたいていの場合、どこかに不満を残してペンを置くことになるようです。意欲だけでは傑作が生まれない。どんなに経験を積んでも技術を磨いても計算しつくせない要素があって、そこがまたまんがのおもしろさでもあるのですが、とにかくできるだけ多く描いてみる以外にありません。

 大傑作になりそうなアイディアを暖めている、まんが家志望のきみ。頭の中で、いつまでもこねまわしていないで、思い切ってペンを取ろう。買わない宝くじは当たらない。チャンスは多ければ多いのほどいいのです。

 

 P. 177

 「まんがの描き方を教えてください」という質問を受けるたびに、昔からの僕の答えは決まっている。「とにかく描くこと。描いて描いて描き続けること」。ひどく不親切みたいで申し訳ないけど、これしかないのです。たしかに「構図のまとめ方」とか「動きの表現」「スクリーントーンの組み立て方」などを教えることはできる。でも、それだけでは本当におもしろいまんがは描けません。それから先のとても口では説明できない、理論を越えた部分の比重がはるかに大きいのです。

 大脳皮質の表層だけで、公式どおりに作られたまんがは、無難にまとまってはいてもそれだけのものです。もっと深層の、作者自身も意識できない地底のマグマが激しく流動し、やがて地上に噴出したときに、きみだけが描ける大傑作が生まれるのです。描いて描いて、エネルギーを蓄えましょう。それしかありません。