生きがい』と題する本が世界中で信じられないくらい売れているらしい。

英語表記は「Ikigai」。

 

日本のコンセプトが海外に良いモノとして広まるのは基本的に歓迎すべき良いことだと思う。

禅、居酒屋、寿司、トヨタ、SONY、御持て成し、HITODENASHI…

 

鎖国が解けて今年で165年。

1853年に初代駐日本アメリカ合衆国弁理公使・タウンゼント・ハリスと江戸幕府が日米修好通商条約を締結。

ここから鎖国政策が完全に撤廃されたわけだが、もっともっと日本の良いものを世界にアピールしてもいい。

まだまだ足りない。

いろいろな分野でいくらでも余地があると思う。

 

ふと思った。

日本の「言葉」もそのうちの一つなのかもしれない。

 

上の『Ikigai』で気になったのは、著者がスペイン人という点だ。

 

もちろんスペイン人だからいけない、日本のことを分かっていないのになんてまったく思わない。

むしろ逆だ。

 

常に外の視点がある人だからこそ、日本の良いところにも目が向く。

 

日本人に気付けない点に。

実際、著者は日本に暮らして長いらしい。

 

気になったのは、なぜネイティブスピーカーである日本人から、世界でこれほど売れる「生きがい」についての本が書かれなかったのかだ。

 

アメリカの著名なラッパー、エミネム。

彼は自身を音楽史上二人目の白人の大悪党だと歌う。

じゃあ、一人目は?

そう、エルビス・プレスリー。

つまり我々二人は黒人の音楽で金儲けし、黒人の音楽を盗んだんだと。

 

当時ラジオで最初にエルビスの曲が流れてきたとき、リスナーは黒人による音楽だと思ったそうだ。

エミネムを見出したヒップホップの大御所プロデューサー、Dr. Dreも最初送られてきたデモテープを聞いたとき、エミネムを黒人だと思ったという。

 

 

外野にいるからこそその価値を発見、喧伝できる部分もあるのかもしれない。

 

さて、「Ikigai」に戻ろう。

 

著者によると、日本人はそれぞれ生きがいを持っていて、聞けば大体答えられるという。

 

もちろんそういう人もいるかもしれない。

だが、全員ではない。

 

ただ日本人なら少なくとも「生きがい」というコンセプトは理解できる。

持っていないより持っていた方がいいというのも賛成することだろう。

 

好意的に見れば、これだけでも特筆すべきことと言いたかったのかもしれない。

 

この本について知ったのは、わたしがいつも聞いているガイ・カワサキ氏のポッドキャストプログラムに著者がゲストとして招かれていたからだ。

 

ガイ・カワサキについては以前も書いたが、シリコンバレーのグールみたいな人で、ハワイ出身の日系人。

プログラムの詳細はこちらから

ポッドキャストを活用した最強の英語学習法

 

二人の会話は最初こそスペイン人作家が「もちろんあなたならご存じでしょうが」「あなたのお祖父さんもきっとそうだったと思いますが」といった具合に、カワサキ氏の出自に気を使いながら生きがいのコンセプトを説明していたのだが、カワサキ氏があまりに日本のことを知らないことが分かると、もっと大胆にコンセプトについて説明していた。

 

カワサキ氏のポッドキャスト「Remarkable People」は好きでいつも聞いていたのだが、氏が日本についてあまりに知らない様子だったのは少しショックだった。

 

やはり彼はアメリカ人なのだ。

途中、生きがいを「イケガイ」と発音していた。

っておーい。

 

しかしそうすると、

「じゃあ、おまえはどれだけブラジルのことが分かっているのか?」

と聞かれたらこちらも返す言葉がないのでこの辺にする。

 

相手がどんな国のどんな人物であろうと偏見なく、常に対等に話をするカワサキ氏にはいつも感心する。

 

 

海外で流行るのはこうのように一言では直訳できない言葉でかつ、日本に古くから存在するコンセプトを解説する本なのだそうだ。

 

パッと思いついたのは「カイゼン」だ。

これなどは80年代の日本バッシングの頃から世界の共通語になった。

これまでさんざん貶されたり、称賛されたりしてきた。

 

そこから時代はさらに進み「ジコカンリ」や「ネマワシ」といった言葉も知っている人は知っている。

 

そういえば、最近は「コンマリ」もよく使われる言葉になった。

 

「今晩出かける?」

「今晩は無理。部屋をコンマリしなきゃ」

 

日々接しているからこそ見えないモノは、見えない。

でもそこにこそ、価値(≒ ビジネスチャンス)を見いだせるかどうか。

 

ということで、何かまだ手つかずで、海外で受けそうな、イイ感じの言葉は残されていないものだろうか。

 

先日、仕事でいっしょに働く外国人の同僚にこの話をしてみた。

 

すると、そういえば日本人の仕事への向き合い方、その特性について解説したあるアメリカ人エクゼクティブコーチのポッドキャストを最近聞いたという。

このような説明があったらしい。

 

「日本人は基本的にタスクを後ろ回しにしたりはしない。

西洋文化に生きる我々からするとこれは考えらない。

彼らは実に尊敬に値する。

日本人にあるのは『アトマワシ』という概念だけだ」

 

聴くのをこの時点で止めたと言っていた(笑)

 

笑い話のようだが、まだまだ日本のイメージというのは、なにかこう、神秘的なものがついて回っている気がする。

 

コンマリの Spark だって、片付けの方法そのものよりも、あのスピリチュアルな雰囲気がウケたと聞く。

 

今やネットフリックスに番組を持つ大御所だ。

 

一つ思い出した。

昔から好きな四字熟語で「万里一空」という言葉があった。

 

これなど海外でも流行らせることができるのではないか。

 

広大で、澄んでいて、素敵な言葉だと思う。

 

どこまで行っても、空は常に一つ。

つまり世界は常に一つ空の下にある、という意味だ。

 

念のため確認すると、どうやら最近は転じてまた違うニュアンスで使われることが多いそうだ。

 

曰く、

「一つの目標に向かって努力を続けること」

 

まったくややこしい。

このニュアンスの変遷も、外国語で、神秘的に、それっぽい雰囲気を出して説明できるだろうか。

 

ダメなら、次に流行りそうな別のバズワードを捜そう。

 

「万里一空」の努力は続く。

 

 

 

Watch KONMARI here:

https://www.netflix.com/title/80209379