イギリスに The Economist という世界情勢を報道する著名な雑誌がある。
この分野の権威的なポジションにある報道誌だ。
(雑誌の形を取っているが、週刊新聞というのが正しい理解だそう)
この雑誌のポッドキャストも大変充実している。
平日はプログラムが毎日更新されるので、移動中などはいつも聞いている。
さてそんなEconomist誌だが、例年 Country of the Year というのを発表している。
前年から大きな前進を遂げた国を一つ選び表彰する。
通常、選考過程はグローバルコレスポンデントたちによる長く激しいディスカッションを経て、複数の候補国からようやく一つ選ばれる。
しかし今年は簡単に決まったという。
もちろん、ウクライナが選ばれたからだ。
ではウクライナは国家として大きく前進したのかといえば、その逆だ。
街々は破壊しつくされ、人々は殺害され、市民は寒さの中、凍えている。
生活状況は圧倒的に悪化し、国家としても疲弊しきっている。
しかし次の4点において、ほかの国が成しえなかったことをウクライナは証明した。
すなわち表彰理由は下記の通り。
1. Heroism(英雄的資質)
自分たちよりも強大な国家の侵略により、あっという間に制圧されてしまうだろうとの見立てに対して、多くの犠牲を出しながらも敢然と立ち向かい、侵略者を押しのけていること。
2.Ingenuity(工夫)
複雑な戦略を学び、侵略者に効果的に狙いを定め前線を守るなど、軍事的な工夫を凝らしていること。組織の末端に至るまで戦略を浸透させ、迅速に反応することで、策略をもって侵略者に対抗できていること。
3.Resilience(回復力)
多くの街で電力が失われ、住む場所すら破壊されている。人々は昼間は共有の場所へ行き明りを求め、暖を取る。夜は地下の防空壕で過ごす。この異常な日常に自らを慣らしていったということ。これがレジリエンス。
4. Inspiration(インスピレーション)
民主主義を守ろうと立ち上がっていること。いじめてくる抑圧者に立ち向かっていること。これが世界中で抑圧されている人々にインスピレーション、勇気を与えている。ウクライナの人々が耐え忍んでいる姿を見て、独裁者のやりたい放題にはさせないんだという機運を生んでいる。
そんなウクライナから私たちは何を学ぶべきだろうか。
それは、いじめてくる国家には、立ち向かう必要があるということだ。
プログラムではこう分析する。
「西側はウクライナを援助しているが、ウクライナが西側を助けているともいえる」
侵略者の帝国主義的な動きを、自らの命をもって止めているのだと。
彼らが守ろうとしているのは、民主主義だけではない。
国境線を暴力で変えることがあってはならないという、もっとも重要なグローバルなルールである。
世界平和を保つためにはこの決まり事を守ることが何より大事なのだ。
私たちはウクライナ危機をどれほど自分事として考えられているだろうか。
この戦争は、遠く離れた土地で行われている、一国の侵略を止める戦いに止まらない。