私と同じくらいの世代で音楽好きな人、特に Hip Hop が好きだったら、Bad Boy Records をよく覚えていると思います。
Mase、Faith Evans、そして The Notorious B.I.G.…。
90年代のヒップホップシーン、アツかったですよね!
ミュージックビデオもスタイリッシュで、East Coast を代表するサウンドは、なんだか眩しく映ったものです。
その中心的な人物が、Sean “Diddy” Combs でした。当時のアメリカ東海岸の輝くスターの象徴だったと思います。
ただそんな彼も、2024年9月に、前々から噂のあった売買春斡旋、性的人身売買などの疑いでついに逮捕され、多数のセレブを招いて開いていたとされる薬物まみれの乱交パーティーなどが明るみに出ていて、「第二のエプスタイン」とも言われる始末。
もうこの人は完全に終わった。
これまでにも R. Kelly を擁護するコメントを出したり、自身に関連する新たなニュースが出るたびに、ほとほとがっかりさせられてきたので、もうこの人について知らないことはないかな、とは思いつつ、Netflix のドキュメンタリー 『Sean Combs: The Reckoning(ショーン・コムズ 裁きの時)』 を観始めました。
Combs 逮捕に至るまでの、ヒップホップ史(東西戦争の背景)を振り返る仕立てになっていて、これがなかなかためになります。
Tupac が殺害された裏にも実は Combs が絡んでいたのかも?! といった示唆もあり、なかなか興味深いドキュメンタリーに仕上がっていました。
ヒップホップが好きな方、必見です★
今回は、このドキュメンタリーの中でも特に重要な人物である
Bad Boy Entertainment 共同創業者 Kirk Burrowes(カーク・バーロウズ) の証言と、Netflix 公式の TUDUM 記事に基づく事実を、日本語で分かりやすく整理していきたいと思います。
Kurk Burrowesという人物 ― Bad Boyを内部から支えた“記録者”
Kurk Burrowes は Bad Boy Entertainment の創業者の一人でもあり、立ち上げ期から、Sean Combs の側近として働き、会社の予算・契約・経費、そして Combs の個人的な費用管理まで担っていたキーパーソンです。

今回、彼が語った最も驚くべき点は、次の事実です。
「Day Zeroから、毎日すべてを書き留めてきた」
残されたジャーナル(日記を含む記録)はなんと、 30箱以上。
監督はそれを「金鉱のようだった」と述べており、ノートの実物がドキュメンタリーでも登場します。(下の写真)

Burrowes は保有していた Bad Boy Records の株式を Combs に無理やり譲渡させられ、会社をクビになります。
本人曰く「野球のバットを片手にすごんできた Combs に、あのときは成す術はなかった」。
BiggieとTupacの友情に対する“嫉妬”
Burrowes は、Biggie(The Notorious B.I.G.)と Tupac の友情に対し、Combs が強い嫉妬を抱いていたと証言します。
「特に何もしなくても成功してしまう二人への強烈な嫉妬だった」
華やかな表舞台からは想像できない、緊張と嫉妬の感情が裏側で渦巻いていたことが明かされます。
興味深いのは、Biggie は決して Tupac と事を荒立てようとはしていなかった、という証言。実際二人はもともとは仲がよかったんですよね。
裏で、Combs が二人の不仲を煽っていたというのです。
この三角関係はやがて東西の対立も相まって複雑化し、1996年に Tupac、翌1997年に Biggie が射殺されるという、ヒップホップ史最大の悲劇へとつながっていきました。
今回初めて知ったのは、この悲劇の裏に Combs が絡んでいたのでは、という疑惑です。

2023年の“供述録音証言”の衝撃
ドキュメンタリーでは、2023年に行われた元クリップス(西海岸のギャング団)幹部 Duane “Keffe D” Davis の“プロファーセッション(供述録音)”が音声で公開されます。
ここで Davis は次のような証言を行ったとされています。
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Combs が「Tupac と Suge Knight(Tupac 所属レーベルの社長)の死のためなら何でも払う」と発言した
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別の場で「100万ドルの懸賞金」を提示したという主張
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Tupac の殺害に使われたとされる銃が、Combs の“親族”とされる Zip 氏の車に隠されていたという説明
なお、
Combs 氏はこれらの関与を強く否定しており、事件で起訴されたこともありません。
しかし Davis の証言は、これまでよりも具体的な形で事件前後の状況を浮かび上がらせるものとなっています。
内部での“屈辱と恐怖”の構造
Burrowes は、Combs のもとで働くことの厳しさをこう語ります。
「彼のもとでは、屈辱を受けることがある。
見せしめにされることもある。
時には暴力を振るわれることもある。」
Bad Boy帝国の華やかさの裏には、外からは見えない強い力の支配があった可能性が示されています。
番組では、Combs自身が幼少期に家庭内で暴力を受けていたという背景にも触れられており、その経験が、のちに他者――特に女性へ向けられる暴力につながっていったのではないかという視点が提示されています。
契約書操作の指示と“終わりの始まり”
Burrowes は、Biggie の契約更新後に「契約書の一部を入れ替えるよう指示された」と証言します。
彼はこれを拒否。
その90日後に解雇されました。
その後の経緯は厳しいものでした。
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2003年:Combs を提訴 → 却下
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2025年:再び民事訴訟を起こし、現在も係争中
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解雇後は「25年間ブラックリスト化され、ホームレスにもなった」
華やかな成功の裏で、内部の人間にとっては過酷な環境が続いていたことがうかがえます。
Combs は自身をプロデューサーと名乗るも、音楽的才能はほとんど持ち合わせていなかったとの周りの証言が続きます。
所属アーティストに働かせるだけ働かせて、ほとんど支払ってこなかった過去も暴露されます。なんと、Biggie の葬式まで、Biggie の売上から払わせたそう。
Combs のレーベルに所属していたある女性アーティストは当時を振り返り、生活のために父親からお金を借りないといけないくらいだった、と語っています。
“真実を語る時”としてのドキュメンタリー
Burrowes は今、新会社「Pop Life Entertainment」を立ち上げ、制作業に復帰しています。
ドキュメンタリーの中で彼はこう語ります。
「これは私の真実を語るための場です。
戦いはまだ終わっていません。
私もまだ終わっていません。」
まとめ ― 再検証される Bad Boy 帝国の光と影
今回のドキュメンタリーと TUDUM 記事は、Tupac と Biggie の死、そしてSean Combs を中心とした Bad Boy 帝国を“内部者の記録と証言”によって再度読み解く試みといえるでしょう。
華やかな音楽帝国を支えた裏側に、どのような力の構造が存在し、どんな出来事があったのか。
それらは今なお真相が完全に明らかになったわけではありませんが、30箱に及ぶジャーナルや具体的な証言は、過去を新たな角度から照らす重要な手がかりとなっています。
Combs がいかに Tupac の曲を研究し、Tupac のレーベル Death Row Records の運営をまねして、自分のブランドを築いてきたか、などこれまで明らかにされてこなかった、負の部分にもライトを当てています。
音楽的才能も持ち合わせず、ただただ才能のある成功者に嫉妬し、女性への憎悪を募らせ、お金儲けにまみれた負け犬の姿に、正直 裏切られた気持ちもあります。
90年代のHIPHOPを愛してきた人にとって、決して軽い内容ではありませんが、この作品は一度立ち止まり、あの時代の“光と影”に再び向き合うきっかけを与えてくれると思います。■
情報元:Who is Kirk Burrowes? Bad Boy Co-Founder Speaks His Truth In Sean Combs Documentary