やはりとても気に入った。

これは紙の本で買って手元に置いておきたい美しい一冊。

 

NY Times の名書評家で知られた、ミチコ・カクタニ氏による書評集。

 

最近こちらの記事で書いた通り。

【読書】『エクス・リブリス』ミチコ・カクタニ 著

 

この本の魅力だが、そもそもミチコ・カクタニが書いたというだけで、圧倒されてしまう。

 

これぞ書評の鏡というバイアスが既にかかっているので、その書評が背負う威厳にやられてしまう。。

 

同じようなことは敬愛するジョン・ル・カレや JRR トールキン作品でも起こる。

作品の内容が本当に面白くて、この作者を推しているの? と自問すべき作家は実は何人もいる。

 

もちろん、そのクラスになると、それでもその作家を推すんだけど。。

考えようによっては、本当にすごい作品、の証拠かも。

読者が強弁して擁護する作品。

 

後世に残る、名作の定義ってこういうところにあるのかもしれない。

「たしかに、ストーリーはいろいろとつじつまが合わなかったり、矛盾もあるけど、、まあ、とにかく読めって。まじですごいから。読んだら分かるから!」

 

 

さて話を元に戻す。

せっかく日本語でミチコ・カクタニの書評が読めるのだから、このブログでもどれか一遍紹介したいと思った。

 

魅力的な作品がたくさん紹介されている。

どれにしよう。

 

そこで気づいたのは、このブログでもさんざん書いてきたテーマ。

そう、書くことについて。

 

しかも、スティーブン・キングの『書くことについて』が入ってる!

 

NY Timesで鳴らしたレジェンド文芸評論家は、米文壇の王たるスティーブン・キングによる本作のどこに注目し、どんなアドバイスにしびれたのか?

 

見ようによっては、これはレジェンド同士の、頂上対決ともいえる!

 

 

では、さっそく抜粋だ!

 

 

P. 207 

『書くことについて』 2000 スティーブン・キング Stephen King, ON WRITING: A Memoir of the Craft, 2000,  

 

 この本は高校や大学のライティング・クラスの必読書であるのはもちろん、長編にしろ短編にしろ、小説というものを書きたいと思ったことがある人なら誰もが手にとるべき一冊である。

 子供の頃にスティーブン・キングの小説を読んで(あるいは映画化されたものを観て)、ストーリーテリングの力、すなわち人々に驚きや恐怖や期待を抱かせる想像の力を知ったという作家は数えきれないほどいる。そしてこの、さほど分量はないが熱のこもった本では、キング自身がそのストーリーテリングの技法について、自らの並はずれたキャリアを通して学んできたことを率直かつ個人的な言葉で語っている。

 『書くことについて』は、ストランクとホワイトの古典的名著『英語文章ルールブック』と同じように実用的であり、しかもはるかに刺激的で、読むのが楽しい。ここには「不安や気取りを捨てる」とか、無駄な副詞や仰々しい言葉を使わないなど、文章を書くうえでの常識が簡潔に述べられているが、それだけではない。これしかないという言葉や、ひねりの利いた完璧なプロットを求めてもがいている新人作家にとって、大いに励みになるアドバイスもちりばめられている。

 たとえば次のような指摘がそうだ。

 ・作家の仕事とはいいアイデアを見つけることではなく、「それが現れたときに気づくこと」だと彼は言う。それは時には、たまたま見たニュース記事から興味をそそる設定のヒントを得ることであり、また時には、それまで無関係だった二つのアイデアを合体させることである(最初のヒット作の『キャリー』では、10代のいじめの問題とテレキネシスが合体した)。

 ・筋立ての妙よりも状況設定がものを言うということ、キングはその多くの作品について、「登場人物(一人でも二人でもいいのだが)を苦境に立たせ、そこから彼らがどうやって抜け出すかを見守り」たかったのだと書いている。

 ・「ミューズに頼るな」。それよりも、ドアのある(ただし電話もテレビもない)書斎スペースを見つけ、一日にどれだけ書くと決めて、その目標を達成するまで毎日(本当に毎日)そこで粘れと彼は言う。モノを書くにも努力が欠かせない。

 ・そして何より肝心なのは、「たくさん読み、たくさん書く」ことである。読書を習慣にすれば、「これまでに何がなされ、何がなされておらず、何が陳腐で、何が新鮮か、またページの上で何が生きていて、何が死にかけているか(あるいはすでに死んでいるか)について、知識を無限に増やしていくことができる」と彼は言う。

 ・キングは一日に10ページー2000語!ー書き、わずか三か月で本一冊分の第一稿を書き上げるが、このような驚異的なペースで書ける作家はあまりいない。だが、第一稿を一気に書き上げろ〔途中で気落ちしたりせずという意味〕という彼のアドバイスは決して特殊なものではなく、締め切りありきで仕事をする若い記者たちも同じことを学ぶ。取材を終えたらすぐ何かしら紙に書き留めろ。そうしておけば、そのあと読み直して穴を埋めたり、事実を確認したり、推敲したりできるのだからと。小説も同じことで、物語の第一稿ができていれば、それを編集し、訂正し、書き直し、あるいはばらばらにして組み直すことさえできる。

 キングが語る作家修行の物語には心をつかまれるし、ウィリアム・スタイロンが『ソフィーの選択』の冒頭数章で描いた自伝的主人公スティンゴや、フィリップ・ロスが『ゴースト・ライター』で描いた、ロス自身の分身ネイサン・ザッカーマンが作家を目指して成長していく様子を思い出させる。また彼は、自分の想像力の形成過程で重要な役割を果たしたと思われるいくつかの出来事(悪ふざけの度合いが尋常ではないベビーシッターに長時間クローゼットに閉じ込められた話など)についても記しているし、書くのが好きになった経緯について語っている。何かしら書きはじめたのは6歳の頃のことで、初めて仕上げた作品は、大きな白ウサギのミスター・ラビット・トリックが率いる不思議な動物たちのお話だった。母親がそれを気に入り、読みながら笑ったのを見て、彼は物語を書くということに「無限の可能性を感じた」のだった。

 キングは1999年に、メイン州の別荘の近くを歩いていてバンにはねられた。この事故で肺がつぶれ、肋骨が4本折れ、腰を骨折し、脚も下腿だけで少なくとも9か所折れた。腰の痛みは「この世の終わりまであと一歩」と思うほどだったが、キングはその5週間後には執筆を再開し、書きかけだった『書くことについて』を完成させた。

 書くのが「かなりつらい」日もあったと彼は記している。だが体が回復に向かい、以前の仕事のルーティンにどうにか身を置くことができるようになったとき、キングは「あの喜びのざわめき、適切な言葉を見つけてきて、それをつなげて文章にするというあの感覚」が戻ってくるのを感じた。「飛行機が離陸するときのような感覚だ。まずは地上を滑走する。まだ滑走中、滑走中……そして不意に浮き上がり、魔法の空気のクッションに乗ると、そのときにはもう地上を一望できている。私にはそれがうれしいのだ。なぜなら私はそのために、書くために生まれてきたのだから」。

 

 

うーん、お見事!

ミチコの琴線に触れたキングのアドバイス。

 

キングの書くことに対する執念と感銘を受けたミチコの文章が共鳴してる。

 

書くために生まれてきたのだ、なんて、なかなか言えない。

 

さすが王。