射殺された市民を「テロリスト」と呼ぶ政府

2026年1月、アメリカ・ミネソタ州で衝撃的な事件が起きました。

連邦移民局(ICE)の作戦中に、市民2人が射殺されました。
犠牲者はRenee Nicole GoodさんとAlex Prettiさん。
複数の市民が撮影したビデオ映像がSNSで拡散し、全米に波紋を広げました。

さらに衝撃的だったのは、政府の反応でした。
犠牲者の一人を「国内テロリスト」と呼んだのです。

 

「これは独裁への入り口だ」

そう警告するのは、歴史家のティモシー・スナイダー氏です。

東欧の独裁政治を研究し、ベストセラー『暴政:20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン』の著者として知られる彼が、ビジネス教授・スコット・ギャロウェイ氏との対談で語った内容は、驚くほど具体的で、そして意外にも希望のあるものでした。

 

「彼らはブラフが多く、打たれ弱い」

スナイダー氏の分析は明快です。

「今のアメリカ政権は、プロパガンダと脅しで独裁を目指している。でも、彼らには弱点がある。実は打たれ弱いということ。」

何もしなければ、アメリカは共和国ではなくなるかもしれない。

しかし、市民が抵抗すれば勝てる――これが彼のメッセージの核心です。

スナイダー氏は、2014年のウクライナを例に挙げます。

当時、抗議する市民が政府に射殺されました。政府は犠牲者を「テロリスト」と呼び、事件を隠蔽しようとしました。しかし市民は真実を記録し続け、最終的に政権を倒したのです。

「今のアメリカには、ウクライナにはなかった強みがあります。外国からの侵略リスクがない。そして、誰もがスマートフォンを持っている」

 

スマホのカメラが独裁を防ぐ

テクノロジーが、権力の暴走を止める武器になる――これが今の時代の希望です。

1970〜80年代、共産主義国家で反体制派の人々は、タイプライターで「小さな真実」を記録しました。

逮捕者のリスト、拷問の証言、隠蔽された事件の記録。それらが積み重なって、やがて体制を崩壊させました。

現代では、その役割をスマートフォンが担います。

ミネソタの事件では、複数の角度から撮影されたビデオが、政府の嘘を暴きました。
「複数の視点からの映像」は、プロパガンダの余地を狭めるのです。

スナイダー氏はメディアにも注文をつけます。

「ニュースは『対立する主張』から始めるのではなく、『実際に何が起きたか』から始めるべきです。
事実の積み重ねが、大きな嘘を押し返します」
 

1930年代ナチスとの恐ろしい類似

歴史家として、スナイダー氏が最も警告するのは「警察権力の中央集権化」です。

1930年代、ナチス・ドイツでは地方の警察を中央政府が掌握し、それが独裁の基盤になりました。

今のアメリカで起きているのは、これと似た現象です。
本来は国境管理を担当するICEが、全米各地で移民取締りを展開しています。
「移民問題」を理由に、法の境界が曖昧になり、中央の権力が拡大しているのです。

移民はどの州にもいるので、ズカズカと土足で入り込めるようになる。

もうひとつの類似点は「道徳的制約の崩壊」です。

ミネソタで射殺された市民を「テロリスト」と呼ぶ。
嘘を繰り返し、現実を上書きしようとする。これは独裁者のプロパガンダの典型的な手法です。

 

企業の沈黙、そしてボイコットの力

対談では、企業の役割についても議論されました。

歴史的に、企業がナチスを支持したのは「労働組合をつぶしてほしかったから」でした。

今のアメリカでも、多くの企業が沈黙しています。反労働者的な感情と、短期的な利益への執着が理由です。

しかし、スナイダー氏は希望も見出します。

「対象を絞った経済ストライキ――つまりボイコットが効果的です。
どの企業が民主主義を支持し、どの企業が独裁に協力しているか。
透明性を保ち、評価システムでランク付けすれば、消費者の力が変化を生みます」

 

抗議する人々の勇気 

ミネアポリスでは、事件後すぐに市民が街頭に出ました。

スナイダー氏はこれを「リスクを取った連帯」と呼びます。
非暴力の抗議は、歴史的に最も効果的な抵抗の形です。
それは単に「悪いことに反対する」だけでなく、「良い価値観を肯定する」行為 
だからです。

個人の尊厳、機会の平等、法の支配――こうした価値を、言葉と行動で示すこと。
それが道徳的な枠組みを設定し、権力者を追い詰めます。

 

今は「不満の冬」か、それとも

スナイダー氏は言います。

「今の状況は、アメリカ史上最悪ではありません。奴隷制、先住民虐殺、日系人の強制収容所――過去にはもっとひどい時代がありました」

しかし、今は「不満の冬」です。この冬をどう過ごすかで、春の訪れが変わります。

過去にも、市民の運動が国を救いました。
奴隷廃止運動、公民権運動、女性参政権運動。
それらはすべて、普通の人々の勇気から始まりました。

スナイダー氏が勧めるのは、不安を行動に変えることです。

抗議に参加する、真実を記録する、地元で連帯する、企業に圧力をかける、選挙に関わる。小さな行動の積み重ねが、大きな変化を生みます。

そして政権交代後には、犯罪の捜査だけでなく、根本的な改革が必要です。政治資金の透明化、選挙区の不正な区割り(ゲリマンダー)の廃止、経済格差の是正、SNSの規制。
これらが、再発を防ぐ鍵になります。

 

日本にとっても他人事ではない 

この話は、遠い国の出来事ではありません。

民主主義は、放っておけば壊れます。
権力は、チェックされなければ暴走します。
市民が声を上げなければ、真実は隠蔽されます。

これは普遍的な教訓です。

スナイダー氏の言葉で、私が最も印象に残ったのはこれです。

「彼らはパンチに弱い」

独裁者は強そうに見えて、実は脆い。

嘘は一時的に通用しても、真実には勝てない。

市民の連帯には、権力も屈するのです。▪️

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元の対談はスコット・ギャロウェイ氏のポッドキャストで視聴できます。
民主主義を守るために、私たち一人ひとりができることを、一緒に考えていきましょう。​​​​​​​​​​​​​​​​

参考: