McKinsey のリーダーシップ研究チームが発表した「世界で最も優れた CEO は、何が違うのか」。

特集したポッドキャスト番組を聴き、記事も読みました。
(「世界のトップ200 CEOの行動を分析したリーダーシップ研究」より)

今回は、A CEO for All Seasons(CEOの四季)という新刊をもとにした特集で、Dell の Michael Dell や Blackstone の Stephen Schwarzman といった大成功した、「時代を象徴する(アイコニック)なリーダー」たちのインタビューを数多く含んでいます。

 

読んでいて驚いたのは、

卓越したリーダーの共通点は、私たちが普通思い描く「強者のイメージ」とは全く異なる

ということです。

 

むしろ、彼らは誰よりも人間の弱さに敏感で、自分の限界に自覚的で、決して「自動運転」で成功しているわけではない。つまり、過去の成功パターンの延長線上で、のうのうと CEO を務めているわけではないんですよね。

これは、リーダーシップについて考える人すべてにとって、大きなヒントになると思いました。

 

リーダーの旅路には、4つの「季節」がある
共通点①:成功者ほど「謙虚」であり続ける
共通点②:人間の「非合理性」を深く理解している
共通点③:強い自信 × 圧倒的な謙虚さ
共通点④:長期視点と“物語を編む力”
最後に:リーダーシップとは「姿勢」と「物語」である 

 


リーダーの旅路には、4つの「季節」がある

記事の中心にあるのは、CEO の役割を、「4つの季節」として捉えるフレームです。

  1. Step Up(準備の季節)
     自分を鍛え、役割に名乗りを上げるフェーズ。

  2. Start Strong(立ち上がりの季節)
     就任直後の100日間で、最初の一手をどう打つか。

  3. Stay Ahead(持続の季節)
     成果を継続し、勝ち続ける負荷と向き合うフェーズ。

  4. Hand Over the Baton(引き継ぎの季節)
     レガシーを形にし、美しく去る準備をするフェーズ。

それぞれの季節には異なる挑戦があるわけですが、興味深いのは「どの季節にも通底する共通項」が存在することでした。

 


共通点①:成功者ほど「謙虚」であり続ける

共同著者の Carolyn Dewar は、まずトップ CEO の学び続ける姿勢に驚いたといいます。

長年成功してきた人ほど、「もう分かっている」とは言わない。

むしろ、

  • フィードバックを歓迎する

  • 自分を問い直し続ける

  • 意図的に“知らない領域”に身を置く

こうした態度を保っているんですね。

リーダーとしての「慢心との距離の取り方」が、一般的な CEO とは決定的に違います。

 


共通点②:人間の「非合理性」を深く理解している

共著者の一人、Scott Keller が挙げた例が面白いです。

人は、自分が貢献した割合を過大評価しがちだし、議論に参加しただけで意思決定への納得度が上がる。

つまり、
リーダーシップとは、人間の合理性ではなく “非合理性” の上に建てられる行為である
ということですね。

たしかに、人間は誰しも自分に良いように解釈する傾向があるし、その場を共有するだけで、肯定感や納得感が増す・・・。
これらはいずれも、普通に考えれば非合理、なことなのかもしれません。でも誰しもが経験があることだと思います。

優れた CEO は、心理学・行動経済学的な「癖」を理解したうえで、人を動かす順番や距離感を設計していると分析しています。

 


共通点③:強い自信 × 圧倒的な謙虚さ

Merck の元CEO Ken Frazier は、「謙虚さとは強さの一形態である」と語っていました。

さらに Elevance Health の Gail Boudreaux は、「CEO の仕事は『孤独』である」と率直に述べています。

これは、

「自分がチームの中心でありながら、同時にチームの外側にもいる」

という独特の立場から来るものだと考えられます。

 

Cincinnati Children’s Hospital の Michael Fisher は、

「to-do list より、to-be list」

が大切だと言います。

「何をするか」よりも
「どう在りたいか」が問われる。

 

リーダーシップの本質は、行動よりも、まず存在そのものに宿るということ。
だから、リーダーシップ育成はいつだって、人間の本質をそれぞれが磨くことに行きつくんですよね。

ビジネスにおける Do (意思決定や行動)分野が今後どんどん AI によって代替されていく中、人間としての在り方、つまり、Be をいかに磨いていくかがますます問われてくるのだと、私も考えています。

 


共通点④:長期視点と“物語を編む力”

そして、Microsoft CEO の Satya Nadella が語る「視界の孤独」。

私がもっとも深く考えさせられたのは、Satya Nadella の次の指摘です。

CEO の孤独とは、情報の非対称性が生む孤独である。
(the loneliness of the role is an information asymmetry* problem)

  • Information asymmetry(情報の非対称性) とは:
    ある立場にいる人だけが他の誰も見ていない種類の情報を持っている。そのため、認知・判断・責任の重みを「共有できない」状態、という経営学の専門用語。

CEO は、他の誰よりも多層の情報を同時に見ています。

  • 組織の内と外

  • 短期と長期

  • ハード(数字)とソフト(文化)

  • 投資家の視点と社員の視点

  • 社内政治

  • 組織文化 

  • 財務 

  • 社員の状況 

  • 投資家の要求 

  • 規制リスク 

  • 競争環境 

  • M&A の裏側 

  • 社外の噂や圧力 

  • 将来の戦略上の決断 

 

こうした「矛盾する複数のレイヤーの情報」を一人で同時に知っている、そしてその全責任を負う。これが、CEO ですよね。

そして、情報のほとんどは、

・共有できない
・部分的にしか話せない
・話せば逆効果になる 
・話す相手がいない

という性質を持つわけです。

これらが互いに矛盾しながら折り重なる「複雑な景色」を、ただ一人で統合し続ける役割を担っている。

その統合作業こそが、CEO の「誰にも共有できない孤独」だと Nadella は言うのです。

そして重要なのは、この“統合”という仕事は分析で終わるわけではない、という点です。

 

最終的にリーダーに求められているのは、

断片的な事実を一本の「物語」として結び直すこと

だからです。

 

だからこそ、優れた CEO はみな、自分自身・組織・業界の未来について、 物語を編む存在 になる。

矛盾に満ちた情報世界に意味を与えるのが、リーダーの「物語能力」なのだと深く納得しました。

 


最後に:リーダーシップとは「姿勢」と「物語」である

この記事を読みながら、私は改めてこう思いました。

リーダーシップとは、知識や小手先のテクニックではなく、まず 姿勢 の問題である。

  • 謙虚さを失わないこと

  • 人間の非合理性と向き合うこと

  • 自分の在り方(to-be)を磨くこと

  • 役割を“季節”として捉え、変容を受け入れること

これらは、CEO という肩書きが与えてくれるものではなく、日々の積み重ねの中でしか育たないものです。

 

リーダーになるとは、
結局は「自分という物語を、リーダーの季節ごとに書き換えていく行為」

 

その書き換えの総体こそが、優れた CEO という存在につながるのだと思います。■

 

参考元:

What sets the world’s best leaders apart 

https://podcasts.apple.com/jp/podcast/the-mckinsey-podcast/id285260960?i=1000731037553&r=2