成功とは、どれだけ“得たか”ではなく、どれだけ“与えられたか”で測られる

The Last Chapter of My Career
これは1日前、ビル・ゲイツ氏が自身のニュースレター Gates Notes に投稿したエッセイのタイトルです。
その内容は、今後20年かけて、ほぼすべての個人資産をゲイツ財団を通して寄付するというものでした。
この発表は瞬く間に世界中で報道され、大きな話題となりました。
ある意味で、これはゲイツ氏にとっての“静かな遺言”ともいえるメッセージだったと思います。
彼はその中で、次のようにも語っていました。

「私の死後、いろいろな評価があるでしょう。でも、少なくとも“金持ちのまま死んだ”とは言わせません。」

「得る」ことよりも「与える」ことを重んじる姿勢。
いかにもゲイツ氏らしい、しかし誰にでもできるわけではない、強い意志と覚悟を感じます。

本記事では、そのエッセイの内容をもとに、ビル・ゲイツ氏がなぜ今、「全財産を手放す」と決めたのか、その背景や哲学を拙訳と共に読み解いてみたいと思います。

⸻ 下記拙訳をもとにまとめ: 「The Last Chapter of My Career」より
⚫︎ 世界一の富豪が「資産を手放す」と決めた理由
来週、私はゲイツ財団の年次社員総会に参加します。毎年とても楽しみにしている行事ですが、今年はとくに特別なものになりそうです。
なぜなら、私はつい先日、自分の保有資産のほぼすべてを今後20年かけて寄付していくことを発表したからです。
マイクロソフトを離れてから何年も経ちますが、私は今でも心のどこかで「CEO」の気持ちを持ち続けています。
資産の使い道についても、その影響力や社会への効果を慎重に考えて決めています。
今回の決断は、ゲイツ財団で働く仲間たちの知性や情熱を、私は深く信頼しているからこそ実現できたものです。
彼らと再会し、これまでの功績をともに祝えることが今からとても楽しみです。

⚫︎ 「より良く生きること」ではなく「より良く与えること」を選んだ人々
ゲイツ財団には、民間企業であればもっと高い収入を得られるような優秀な人材が多くいます。
それでも彼らは、自分のスキルや情熱を「より大きな目的のために使いたい」と願い、財団の活動に参加しています。
アンドリュー・カーネギーは、そうした姿勢を「貴い寛容さ(precious generosity)」と表現しました。
まさにその言葉通りの人たちが、ゲイツ財団には多く集まっています。

⚫︎ 母から教わった「与えること」の価値
私が初めて「社会に恩返しをする」という考え方に出会ったのは、母の影響でした。
彼女はよく、「多くを与えられた者は、多くを期待される」と言っていました。
母は、私が得たものは「自分のものではなく、一時的に預かっているもの」だと教えてくれました。
この考え方は、今も私の人生観の中心にあります。

⚫︎ 父が築いた財団の精神
私の父は、財団の初代リーダーとして、今の私たちの価値観の土台を築いてくれました。
彼は「協働すること」「慎重に判断すること」「学び続けること」の大切さを、行動で教えてくれました。
財団の最も名誉ある表彰「ビル・シニア賞」は、そうした父の精神を最も体現したスタッフに贈られています。
私たちがこれまで達成してきたこと、これから実現していくことは、すべて父のビジョンの延長線上にあると信じています。

⚫︎ バフェット氏とフィーニー氏から学んだ「生きている間に与える」という哲学
大人になってから、私に大きな影響を与えてくれたのが、投資家のウォーレン・バフェット氏です。
彼は私に「すべてを与える」という考え方を教えてくれた最初の人でした。
また、チャック・フィーニー氏の「生きている間に与える(giving while living)」という信念にも、私は深く共鳴しています。
この哲学は、私の寄付の在り方に大きな影響を与えています。

⚫︎ いま、行動を起こすとき
私は、他の富裕層の方々にもぜひ考えていただきたいと思っています。
もし寄付のスピードと規模をほんの少しでも上げることができれば、世界の貧困や病気の克服に、どれほど大きなインパクトを与えられるかを。
ゲイツ財団での日々は、私に新しいことを学ばせてくれ、現場の人々と連携しながら実際に社会を変えていく喜びを与えてくれます。
そして今日の発表は、おそらく私のキャリアの「最後の章」の始まりになるでしょう。

⚫︎ マイクロソフト創業から50年──人生の節目に下した決断
私は、友人とソフトウェア会社を立ち上げた10代の頃から、長い道のりを歩んできました。
そして今年、マイクロソフトは創業から50周年を迎えます。
この節目に、私はその会社から得た資産をすべて社会に還元することを決めました。
それは、私にとって自然なことでしたし、とても誇らしく感じています。

⚫︎ おわりに
資産を持つということは、それをどう使うかという責任を伴います。
私は、自分の残りの人生を「世界が前に進むために使いたい」と思っています。
時計の針は、もう動き出しています。
これからの20年を、私は一日一日、大切に歩んでいきたいと思っています。

出典
Bill Gates, GatesNotes
「The Last Chapter of My Career」より拙訳

なかなか深い内容です。
決意と覚悟と自分が残せる最後のインパクトを強く意識した遺言のようにも感じられます。
ビル・ゲイツ氏の寄付の決意は、ただの“富豪の美談”と受け止めるものではく、むしろ、「自分はどう生きるべきか?」という問いを、読む者に静かに突きつけてくるものだったと思います。

与えることは、けっして資産のある人だけの特権ではありません。
時間でも、知恵でも、思いやりでも、人はそれぞれの形で「与える」ことができます。

自分がこれからの人生で何を遺せるのかを私たちも考えないといけないのかもしれません。
それは家族や周りにいる人への「愛」かもしれないし、「言葉」かもしれません。あるいは、「誰かの記憶に残る優しさ」かもしれません。

人生の“最後の章”に何を書くかは、自分で選べます。

あなたが最後に遺すものは、何でしょうか?◾️