2011年にミステリー出版で名高いある出版社の編集者職に申し込んだことがある。

残念ながら書類審査で落ちてしまったのだが、その時に出された課題が「編集者に最も必要な特性とは何か?」という興味深いものだった。

 

この年末年始に自宅の整理で書類を片付けていたら自筆の原稿が出てきた。

不合格だったのでそのまま返却されたのだ。

 

心を込めて一文字一文字を書いているのを見てたら、我ながらその努力というか、込めた思いに悲しくなった。

もう14年も前の文章なのに、当時を容易に思い出せる。

 

文章の持つ力だ。

せっかくなので、ここにあげておこう。今もあまり考えは変わっていない。

 

こんなようなことを書いていた。

 

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編集者に最も必要な特性とは何か?

編集者とは、単に原稿を扱うだけの職業ではありません。

作品の価値を最大限に引き出し、作者と読者をつなぐ架け橋としての役割を担う存在です。

この重要な役割を果たすために、編集者に最も必要な特性は何でしょうか?

 

私が考えるに、それは**「深い共感力と冷静な判断力のバランス」**です。

 

ノーベル文学賞受賞者11人を手掛けた、イギリスの名編集者トム・マシュラーは、自身の回顧録の中で「申し分のない本を出版するには、その作品に惚れ込むことが必要だ」と述べています。

この言葉は、編集者が作品とその作者に心から共感し、寄り添うことの重要性を示しています。

しかし、おそらくはそれだけでは十分ではありません。

共感の先にあるのは、冷静に市場のニーズや読者の期待を見極め、適切な判断を下す力だと思います。

 

どんなに優れた作品でも、それが読者に届かない形で出版されてしまえば、その価値を完全に発揮することはできません。

編集者には、作品そのものに情熱を注ぐ一方で、市場動向や出版プロセス全体を俯瞰し、作品の価値を広めるための最善策を選び取る力が求められるのだと思います。

 

ここで鍵となるのが、私が「コモンセンス」と呼ぶ特性です。

通常、この言葉は「常識」と訳されますが、私はこれをもう少し広い視点で捉えています。

それは、時代や文化、状況を超えて人々に共通する感覚を理解し、作品を最適な形で届けるセンスです。

 

具体的には、次のような力を指します。

〇作品の強みと弱みを見抜く力
 作者の視点を尊重しつつ、読者の視点に立ってその作品がどう評価されるかを見極める力。

〇市場を見渡す広い視野
 読者層やトレンドを的確に把握し、作品がどのように位置づけられるべきかを判断する力。

〇利害関係者との調整力
 作者、デザイナー、営業チームなど、さまざまな関係者の意見を調整し、プロジェクトを成功に導く力。

 

編集者は、情熱的でありながら冷静、創造的でありながら実務的な存在である必要があります。

このバランスを体現し、作品に「共感」と「価値」を加えることで、初めて真に読者に届く本が生まれるのだと考えます。

 

以 上

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