「現代のParis Reviewを、インターネットの中に作るんだ」
そんな志を持って、世界中の作家・思想家・芸術家たちとじっくり対話を重ねている人物がいます。
David Perell(デイヴィッド・ペレル)です。
彼のポッドキャスト『How I Write』では、これまでにマルコム・グラッドウェル、マリア・ポポヴァ、モーガン・ハウセル、ポール・グレアムなど、現代の一線で言葉を扱う人々が登場してきました。
私も日頃からよく聴いており、創作を志す者にとっては学びの多い知的な場だと感じています。
そんなペレルが今回迎えたのは、ハリウッド脚本界の生ける伝説、Eric Roth(エリック・ロス)です。
エリック・ロスとはどんな人?
代表作は『フォレスト・ガンプ』。この作品でアカデミー脚本賞を受賞しています。
そのほか『ミュンヘン』『ベンジャミン・バトン』『アリー/ スター誕生』、最近では『デューン 砂の惑星』などでもアカデミー賞にノミネートされており、その数は実に7回に及びます。
驚異的ですね。
なお驚くことに、80歳を超えた今でも、彼は「毎日ページ1から書き始める」と言います。
ペレルとの対話では、創作技法というよりも、「なぜ物語を紡ぐのか」「言葉はどうすれば人の心に届くのか」といった、本質的な問いが語られていました。
それではいきます!
心を動かす物語を書くための12の心得
1. 毎日書くこと──“ページ1”からでも
筆が乗らなくても、いつも最初のページから読み直して書き直すことで、全体の整合性が生まれる。書くことは修行であり、物語と共に生きるための儀式。
2. キャラクターには“心理”がある
登場人物の「過去」「性格」「こだわり」を細部まで理解することで、その言動に一貫性が生まれ、読者は感情移入できる。
「なぜこの人はこう振る舞うのか?」を説明できることが重要。
3. すべてのシーンに“テーマ”が通っているか?
物語の核となる問いやテーマ(例:正義とは何か?愛とは何か?)に常に立ち返る。
テーマが明確なら、どんなシーンもその意味づけができる。
4. “本音”は、遠回しに語れ(サブテキストの力)
直接的なセリフより、夢・比喩・逸話などを通じて本音を匂わせた方が、深みが生まれる。
読者に「考えさせる余白」を与えるのが上手な作家は、偉大だ。
5. 記憶と時間を大切に描く
過去の出来事や時間の流れを丁寧に描くと、読者の“人生の記憶”と共鳴する。
物語は単なる出来事ではなく、時の中の心の動きとして伝わる。
6. 小さな日常に、神聖を見いだせ
観客の心を打つのは、大事件よりも“さりげない日常”。
窓辺に立つ姿、髪を撫でる手、沈黙の時間──こうした瞬間にこそ真実が宿る。
7. セリフは“音楽”である
セリフは意味を伝えるだけでなく、リズム・抑揚・響きの美しさが求められる。
台詞の音楽性を意識することで、印象に残る“名セリフ”が生まれる。
8. 冒頭と結末に、“家”をつくる
観客が「この物語に住みたい」と思える導入を、そして離れがたくなる結末を。
物語のはじまりと終わりは、読者との約束である。
9. 迷ったら、天気を変えよ
筆が止まったら、シーンに「雨」「風」「夕暮れ」などの気象変化を加えてみる。
人物の動きや感情が思わぬ方向に展開する。
10. “本物らしさ”は、すべてに優先する
どんなに奇抜な設定でも、人物の感情や行動に“リアルな動機”があれば読者は信じてくれる。
リアルであること、それが創作の説得力の源だ。
11. シンプルな言葉が、最も深く届く
名言は往々にして、短く、そして静かだ。
「愛している」「待ってたよ」──余計な修飾を省いた言葉ほど、心を射抜く。
12. 大切なのは、“成功”よりも“冒険”
「売れるかどうか」より、「心から書きたかったか」。
そして、書くことが苦しい日も、「今日はここまで」と思える場面で書き終える。翌朝、また続きが書きたくなるように。
補足:構造を超えて、物語は動く
ロスは「どんな物語も結局は3幕構成になる」と語ります。
問題を提示し、それを複雑にし、そして解決するかしないかを描く。
時系列を変えても、表現形式が前衛的でも、この流れは“物語の骨”として避けられない。
最後に
エリック・ロスは、3度のガンと数度の離婚を経験しながらも、「毎日書くことが冒険なんだ」と語っています。
その言葉には、人生の痛みも、希望も、すべてを引き受けて物語を生きる覚悟がにじんでいる気がします。
脚本とは架空の人物に「本物の人生」を与える仕事だと、ロスは言います。
観客や読者が、その物語に自分自身の記憶や感情を重ねたとき、それはようやく“他人の話”ではなくなる のだと。
この対話を通して学んだのは結局、物語を語るという行為そのものが、誰かとつながる ことでもある、ということでした。
また今日も、ページ1から書き始めようと思います。■
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