みんな何かしらの呪縛や暗い過去を背負って生きている。

 

人によってはそれは毒親かもしれないし、自身の直せない考え方の癖かもしれない。

 

生きていくということはそういったマイナス要素の影響を受けながら、時に意図せず人を傷つけてでも生きていくということ。

この作品の主人公は自分のことを好きになることができず、その負の要素を前面に意識して失敗にフォーカスることで自身を罰するような考え方を貫いている。

不幸でもあるし、不運に見舞われた人生の見本みたいな生き方をしている。

読後感は明るいものではない。

なにか苦しくて重いものが、ジワジワと迫ってくる感じ。

 

『本の雑誌』が選ぶ 2024年ベスト10 のランキングで3位に入った作品で、私小説文学で鳴らした故・西村賢太の後継と目されている作家さんらしい。

さらさらとした文章で、西村賢太みたいにちょっと読めない難解な言葉は使わない。

生きる上の、無意識に人を傷つけてしまうことに対する痛みをダイレクトに伝えてくる。

ちゃんと伝わる文章でその痛み、後悔、悩みぶつけてくるこの感じにしびれた。

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〈抜き書き〉P. 153 

 短絡的で根気が無く、そのくせ頼まれたら断れない性格で、安請け合いシテは途中で嫌になり逃げだしてしまう。振り返ればそんなことばかりで、対人関係においては先に記した歪んだ考え方によって、よかれと思ってしたことですら、結局人を傷つけた。

 好きな自分なんて見つかりそうになかった。好きだと一度も思わずに今まで生きて来た。たとえ理想の姿すら見つけられそうになかった。仮に見つかったところで、そうなれる気はしなかった。幸せな記憶なんてほんのひとにぎりで、ほとんどの時間を後悔に費やしてきただけなのだから無理もなかった。

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雑誌2024年1月号のTHE21の特集に、なぜか「いいこと」が起こる人の小さい習慣ー「運がいいには」理由がある!という特集だった。

その中で脳科学者の中野信子さんが、運が良くなるポイントについて科学的な説明を載せておられた。

曰く、運がよい人は自分を「変える」のではなく、「活かす」のだと。

大事なのは「自分は運がいい人間だ」と決めつけてしまうこと。

そのためには、根拠のない自信がなにより大切とのこと。

 

 

さて、これを頭では分かっても心で実行に移せるかどうか。

 

作中の主人公にとって、じゃあ正解はなんだったのだろう、と時間が経てば経つほど後からじわじわと考えさせられる一冊。