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「問題を持ってくるなら、解決策も持ってこい」 仕事の世界では、よく聞く言葉です。

特に上司から部下へ投げかけられることが多い言葉ですね。 不満を言うだけではいけない。

自分の頭で考えろ。オーナーシップを持て。

一見、もっともです。

ところが、「心理的安全性」の研究で名高い、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授は、この言葉を「最も嫌いなマネジメントの決まり文句」の一つだと切り捨てます。

理由は簡単です。

上司が、「自分でも考えてほしい」というつもりで言っていても、部下には別の意味に聞こえるからです。

「答えがないなら、問題を持ってくるな」

すると、何が起きるか。

部下は小さな異変に気づいても言わなくなる。 まだ確信がない。

解決方法も分からない。

もう少し様子を見よう。 そうしてすくすくと問題は育っていきます。 NASAのスペースシャトル事故、フォルクスワーゲンの排ガス不正、Theranos。

エドモンドソンが挙げる重大な失敗には、ある共通点があります。

それは、問題は突然現れたわけではないということ。

その前に、誰かが異変に気づいていた。警告もあった。

しかし、それが組織を十分に動かさなかった、ということ。

ここで、一つ考えてみたいことがあります。

問題を見つけることと、問題を解くことは、同じ仕事なのでしょうか。

顧客担当者は、同じ苦情を一週間に何度も聞くかもしれません。

看護師は、医療機器が使いにくいことに気づくかもしれない。

若いエンジニアは、いつも同じところで仕事が詰まっていることに気づくかもしれません。

現場に近いから、見える。

でも、見つけた本人だけで解決できるとは限りません。

商品開発、営業、法務、財務、本社、現場、経営陣。

本当に重要な問題ほど、複数の部署や階層にまたがっています。

それなのに、

「解決策も持ってこい」

と言われたらどうなるでしょう。

 

問題を最も早く発見できる人に、

「会社全体を動かせる答えまで一人で考えてから来い」

と言っているのと変わらなくなります。

 

エドモンドソンは、こうした考え方を

「一人の英雄が問題を解決するモデル」

として退けます。

複雑な組織では、問題は一人で見つけられても、一人では解けない。 だから必要なのは、

Problem Spotter(問題発見者)は一人でも、Problem Solver(問題解決者)はチームでよい

という発想です。

切り分けて考えることが重要。

トヨタには、対照的な言葉があります。

後にトヨタ会長となる張富士は、米国ケンタッキー工場で部下にこう語ったと伝えられています。

問題について話してください。
一緒に取り組みましょう。

この言葉の方が、組織について大切なことを捉えているように思います。 良い組織とは、問題のない組織ではありません。

むしろ逆です。

良い組織ほど、問題がよく見える。

悪い組織では、問題がない(ようにみえる)。

正確には、「問題はありません」と報告されている。

会議では順調な数字が並ぶ。
大きな懸念事項はない。

なのに、ある日、「重大な問題」が突然発覚する。

しかし、本当は突然ではなかったのかもしれません。

見えていなかったのではない。

見えていた人が、言わなかった。

 

だから、リーダーが聞くべきなのは、

「で、解決策は?」

ではありません。

「何が起きている?」
「いつから?」
「何度起きた?」
「何が気になっている?」

問題をきちんと言葉にすること自体が、仕事なのです。

ただし、これは「何でも上司に丸投げしていい」という話でもありません。

エドモンドソンが勧める考え方は、もっと厳しい。 解決策はなくてもいい。

だけど、「一緒に」考える準備はしてきて。

問題を持ってきた人も、解決するチームの一員であり続ける。

ここには、自律と協働の両方があります。

さらに彼女は、もう一歩踏み込みます。

問題を上に上げることは、不忠などではなくこれこそが、リーダーシップである、と。

自分の部署が悪く見えるから。
上司の顔を潰したくないから。
余計な波風を立てたくないから。

そんな「忠誠心」で問題を黙ってしまうことがあります。

しかし、本当に組織のことを考えるなら、逆のはずです。

組織にとって必要な悪い知らせを伝えることこそ、責任ある行動です。

そして最後に、姿勢の問題。

上司が、「問題は早く言ってほしい」と言った翌日に、実際に問題を持ってきた部下へ、「なんでこんなことになったんだ」と苛立ったらどうなるでしょう。

部下はすぐに学びます。

「言わない方が安全だ」と。

組織文化は、悪い知らせが届いた瞬間のリーダーの反応によってつくられます。

悪い知らせが、まだ小さいうちに自分のところまで届く組織をつくること。

そしてそのためには、一人で考えさせるのではなく、一緒に考える姿勢を示すこと。

 

今日のまとめ:

人が問題を持ってこなくなったとき、それは問題がないからではありません。

リーダーとして、もっとも心配すべき状態に陥っているということです。■

 

参考情報

Amy C. Edmondson, “Why ‘don’t come to me with problems—come to me with solutions’ is bad advice,” Fast Company, August 25, 2026. https://www.fastcompany.com/91593090/dont-come-to-me-with-problems-come-to-me-with-solutions-bad-advice


初出:note、2026年9月28日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年10月5日)。原文:https://note.com/proper_clam757/n/nfc867caec34b