昨日はイノベーションについて書きました。

「失敗の殿堂」、なかなか簡単に作れるものではないですよね。

 

しかし、現代のVUCA社会においてはこれまでの知恵や経験に基づくやり方では解決できないこともたくさん出てきています。 

コロナ禍はその代表的なものでしたが、当分なにもないだろうと思っていた矢先にウクライナ危機が勃発するなど、これほど予想もしない出来事が次々と起こってくると、過去の成功体験が役に立たないどころか、成長の妨げになる局面も出てきます。

そこで今日も引き続き、「失敗」に焦点を当てながら、イノベーションについて考えてみたいと思います。

 

オランダのマーストリヒト大学で、失敗に関する研究に組んでいるポール・ルイ・イスケ教授の新著『失敗の殿堂:経営における「輝かしい失敗」の研究』が、2021年5月に出版されました。 

 

イスケ教授とは面識があり、これまでも直接イノベーションと失敗の関連性についてお話を伺ったことがあります。

失敗を前向きにとらえ、その失敗からどのように、新たな価値を作り出すか、新たな学びへと昇華させるのか。

エネルギッシュに説明してくださったのが印象に残っています。

 

ちなみにこのマーストリヒト大学は、オランダで最も国際性の高い大学で、実践力・問題解決能力を重視したイノベーティブかつ学際的な教育モデルで知られます。

この本は昨今のVUCA時代においては、これまでのように成功体験ばかりを賞賛し、失敗を隠そうとする風潮は不合理だとし、失敗こそ次の成功につながる学びの宝庫であると説きます。

 

ただ一方ですべての失敗を喜ぶべきだ、ということではないともいいます。

失敗にも「輝かしい失敗」と普通の失敗があるというのです。

 

何が違うのでしょうか。

 

「輝かしい失敗」とは、「価値創造のために周到な準備をし、全力をつぎ込んだにもかかわらず、意図した結果が出せなかった。その一方で、学ぶ機会があった、という状況」を指します。

 

では具体的には何をもって「輝かしい失敗」となるのでしょうか。

 

理論物理学者でもあるイスケ教授は、次のような公式を作って、その失敗がどのくらい輝かしいかを測定できるようにしました。

 

〇輝かしい失敗=V×I×R×A×L

V:ビジョン(何を達成しようとしたのか)
I:インスピレーション(エネルギーをつぎ込んだのか)
R:リスク管理(リスクにうまく対応したか。リスクは多すぎても、少なすぎてもよくない。リスクが少なければ、機会を逃すことになる)
A:アプローチ(適切に準備しているか。一緒に協力したのか。そこにある知識を生かしたのか)
L:学習(学んだことを応用したり、ほかの人と共有しているか)  

 

この5つのスコアを掛け合わせることで、再現性を持たせ、「輝かしい失敗」というアイディアを広め、得られた結果や教訓を共有することができるというのです。

 

良い失敗と悪い失敗について考える際、ひとつのヒントになるかもしれません。

 

本書ではさらに、私たちはいかに失敗から学ぶことができるのかについても触れています。

 

それには「失敗のインテリジェンス」を使うことを勧めています。
これは単に失敗を認識することではなく、適切な情報をもとに失敗パターン(型)を理解し、適用したり新しい型を突きとめたり、作ったりすることを指しています。

※失敗の型については下記の抜粋図を参照ください

 

その型の一つに、「欠席者のいるテーブル」があります。

どういった失敗でしょうか? 

 

興味深い事例が挙げられています。

 

「オランダで以前、アムステルダム近郊の森の中に高速道路を開設しました。

その結果、木が伐採され、リスの生息地が道路で分断されてしまったのです。

リスが道路を渡るのは危険です。そこで、14万4000ユーロ(約2,000万円)を投じてリスのために屋根付きの橋を設置しました。 

ところが、2年間でそこを通ったリスは1匹だけでした。

あれほどお金をかけて、リス1匹なのかと思うかもしれませんが、これこそが『輝かしい失敗』です。

誰かにとって価値があると思って情熱を持って取り組んだけれども、本当に必要としている当事者(リス)は存在しなかったのです。」

 

 

笑い話のようですが、同じような失敗パターンは、コロナ禍の中でも様々な形で見られた気がします。

当事者に意見を聞かなかったばかりに空回りする政府施策、当事者不在のまま意思決定された企業戦略、いくらでも例を挙げられそうです。

 

イスケ教授はこれらの型を使うことで、「この失敗はこの型に当てはまる」というように、何が起きているかを早く見抜き、それゆえ学習や共有が進むと論じています。 

 

なお、下図のように「輝かしい失敗」には16の型があります。 

 

この図を見ながら考えれば、過去に起きた同様の失敗の轍を踏むのを避けられますし、プロジェクトを始める前や途中でも、何が起こりそうかを事前に知ることもできるかもしれません。

 

何を行い、その結果、何が起きたかを、これらの型を使って整理、共有することで、組織、チーム、システム、個人という各レベルで失敗を正確に捉えやすくなり、学びにもつなげやすくなります。

 

あるインタビューで、イスケ教授が日本の読者へのメッセージとしてこのように述べていました。 

 

「日本の皆さんも、ぜひ失敗を褒めたたえるようになればと願っています。
そうすれば、誰もが自分たちがどんな試みをしたかを積極的に共有するようになり、それがよりよい世の中につながっていくからです。
『輝かしい失敗』は単なる選択肢ではありません。非常に複雑で動的な世界の中で必要なものなのです。」

 

気になった方はぜひ書店で本書をチェックしてみてください。

 

『失敗の殿堂:経営における「輝かしい失敗」の研究』
https://str.toyokeizai.net/books/9784492503300/ 

抜粋)失敗の殿堂 経営における「輝かしい失敗」の研究 / ポール・ルイ・イスケ著/紺野 登監訳/渡部 典子訳

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