2026年9月13日、アメリカ・アトランタで、約1,600人が参加するランニングイベントが開かれました。

主催者はラッパーのガンナ(Gunna)。
ガンナといえば、過去には銃撃戦に巻き込まれたり、麻薬所持で逮捕されるといった、荒っぽい経験を持ついかつめのラッパーです。
今回、彼は参加者と一緒に5キロを走りました。

[画像省略:出典 https://www.ajc.com/arts-entertainment/2026/09/atlanta-rapper-gunna-brings-wunna-run-club-5k-back-home/]

このイベントには、地元の家族や地域社会を支援する非営利団体「Gunna’s Great Giveaway」の活動資金を募る目的もあります。ステキですよね。

それにしても、ガンナは、なぜ走り始めたのでしょうか。

地元紙『The Atlanta Journal-Constitution』のインタビューによれば、きっかけは2022年に収監先から釈放された後のことでした。アリゾナに滞在していた彼は、自宅の裏にある道を走り、さまざまなことから気持ちを離そうとしていたそう。

やがてランニングは日課になり、仲間が集まり、世界各地でファンと走る活動へと発展しました。

今、ヒップホップの世界で、こうした健康への関心が広がっています。

大麻文化との結びつきで知られるウィズ・カリファ(Wiz Khalifa)は、格闘技やランニングに取り組んでいます。派手なパーティー音楽で知られるリル・ジョン(Lil Jon)は、2024年に瞑想アルバム『Total Meditation』を発表しました。

ヒップホップの成功者といえば、これまでは、高級車、大きな宝石、札束、美女、夜通し続くパーティー、といったイメージ。もちろん、それがヒップホップのすべてではありませんが、それでも、富や派手な生活を成功の象徴として見せる文化が存在してきたことは確かです。

そこに今、健康という別の価値が加わろうとしています。世の中もだいぶ変わりましたね。

もっとも、健康への関心は突然生まれたわけではありません。2000年には、ヒップホップ・デュオのデッド・プレズ(Dead Prez)が「Be Healthy」という曲を発表しています。野菜や果物を食べ、身体を大切にすることを歌った作品です。そこではすでに、健康こそが本当の豊かさにつながるという考え方が示されていました。

https://youtu.be/47757IZRc5c?si=qi2H5jcA00Z9JRMx

ただ、最近の変化で顕著なのは、健康が歌詞の中だけでなく、ファンも参加できる活動になってきていること。

この動きは音楽の世界に限りません。世界的に広かったいる動きのようなんです。

運動記録サービスのStravaによれば、2024年には世界のランニングクラブへの参加が前年比59%増加しました。同社の調査では、回答者の58%がフィットネスグループを通じて新しい友人ができたと答えています。
つい最近も、日経にこんな記事も。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC246I10U6A920C2000000/

人々は、身体を鍛えるためだけに走っているわけではないようです。誰かと出会い、話し、同じ時間を過ごす。ランニングクラブは、新しい社交の場にもなっています。

ガンナの活動も、個人的な習慣から、ファンが一緒に参加できるコミュニティへと広がりました。私はこの動きの中で、成功の意味が変わり始めていることに興味を引かれます。

若い頃には、どれほど多く稼ぎ、どれほど派手に遊べるかが成功の証しになるかもしれません。しかし、年齢を重ねれば、稼いだお金を使う時間も、それを楽しむ身体も必要になります。

ガンナ自身も、インタビューで、もっと長く生きて人生を楽しめたらいいではないか、と語っています。

では、彼にとって健康であることは、何を意味するのでしょうか。

彼は走りながら、前夜に制作した未発表の音楽を聴き、次の曲について考えることもあるそうです。運動を続けることで、ステージで長く歌えるようになり、以前よりもエネルギーを感じるとも語っています。

一方で、健康的な生活と音楽制作を両立させるには、スタジオで過ごす時間を調整する必要もあるといいます。走ることは、音楽を作る生活と切り離された活動ではないのですね。つながっている。

成功するために身体を酷使するのではなく、成功した後も好きなことを続けられるように身体を大切にする。

ヒップホップに広がるこの動きは、そんな豊かさのあり方を私たちに示し始めているのかもしれません。◾️

参考情報

* John Wright, “Hip-Hop Has Entered Its Wellness Era,” SNOBHOP, 2026年9月4日。
   https://snobhop.substack.com/p/hip-hop-has-entered-its-wellness
* DeAsia Paige, “Atlanta rapper Gunna hosts another 5K run. For him, the journey is personal,” The Atlanta Journal-Constitution, 2026年9月11日。
   https://www.ajc.com/arts-entertainment/2026/09/atlanta-rapper-gunna-brings-wunna-run-club-5k-back-home/
* Christopher Harris, “Gunna brings Wunna Run 5K home to Atlanta, receives South Fulton proclamation,” CBS News Atlanta, 2026年9月14日。
   https://www.cbsnews.com/atlanta/news/gunna-brings-wunna-run-5k-home-to-atlanta-receives-south-fulton-proclamation/
* Wunna Run Club公式サイト。
   https://www.wunnarunclub.com/
* Strava, “Year in Sport: Trend Report 2024,” 2024年12月4日。
   https://press.strava.com/ea/articles/strava-releases-annual-year-in-sport-trend
* BMG, “Rapper Lil Jon Set To Release Guided Meditation Album With BMG,” 2024年2月12日。
   https://www.bmg.com/news/Rapper-Lil-Jon-set-to-release-guided-meditation-album-with-BMG
* Dead Prez, “Be Healthy,” 『Let’s Get Free』所収、2000年。
   https://music.apple.com/us/album/lets-get-free/219077856


初出:note、2026年10月4日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年10月15日)。原文に掲載されている第三者の画像は、権利上の理由により本アーカイブでは省略しています。原文:https://note.com/proper_clam757/n/n80c09df9ad93

カバー画像:アトランタのピーチツリー・ロードレースを走るランナーたち(Public domain, Wikimedia Commons/出典)

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