建物が崩れたとき、最初に中へ入る救急隊員は、人間でもロボットでもないかもしれません。
ゴキブリです。
オーストラリアのUniversity of QueenslandとUNSWの研究チームは、North Queensland giant burrowing cockroachという大型のゴキブリに、小型カメラや電子機器、医療用の注射装置を載せる研究を進めています。
名前は、Paraborg。
Paraborgは、parasiteとcyborgを組み合わせたような発想のbiohybrid robot バイオハイブリッド・ロボットです。完全な機械ではありません。生きた昆虫の身体に、人間が必要とする機能だけを付け加えています。
研究チームは、ゴキブリの背中に軽量の装置を載せ、電極を使って進行方向を操作します。狭い瓦礫の中へ入ってカメラで周囲を確認し、将来的には、閉じ込められた人へ緊急薬を届けることまで想定しています。
実験では、ターゲットから15cm以内にいる状態での注射は95%成功しました。
移動して位置を合わせ、注射する一連のタスクでは72%成功しています。
ただし、ここは慎重に見る必要があります
これはまだ実験室――でのproof of conceptです。
(新しいアイデアや技術が実際に実現できるか、効果があるかを本格的に始める前に小規模な方法で検証)
実際の倒壊現場で人を救助したわけではありません。瓦礫には段差も粉じんもあり、通信が切れる可能性もある。人間に安全に薬剤を届けるには、さらに多くの課題があるとされます。
研究者自身も、現場での実用化は5〜10年先の目標として話しています。
それでも、この研究はかなり面白い。
ゴキブリに注射器を背負わせたという奇抜さだけではありません。研究者たちは、ゴキブリのように動けるロボットを作ろうとしていないからです。
狭い隙間を進める。
多少ぶつかっても動ける。
小さな身体で比較的大きな荷物を運べる。
こうした能力を、一から機械で再現するのは簡単ではありません。
でも、ゴキブリはすでにそれらができる。
何億年もの進化のなかで、その身体はその仕事に適応してきました。だったら、難しい部分は、生物に任せちゃえばいい。人間はそこへ、進行方向を操作する機能、映像を見るためのカメラ、薬を届けるための装置、だけを加える。
この発想は、最近のヒューマノイドロボットとはかなり対照的です。(頭部、胴体、腕、脚など、人間の身体構造や動きを模して作られた人型ロボットのこと)
ヒューマノイドロボットでは、人間の身体能力をどこまで機械として再現できるかを考えます。
歩く。
物を持つ。
バランスを取る。
手先を動かす。
Paraborgは、ほとんど逆なんですよね。
全部を作り直さない。
自然がすでに作った優れた身体を借りて、足りない機能だけを機械で補う。
ここにテクノロジーの別の方向があるように思います。
イノベーションというと、私たちはすぐ、
「ゼロから新しいものを作る」
と考えます。
でも、世界にはすでに驚くほど優れた仕組みがあります。
鳥は飛ぶ。
魚は泳ぐ。
植物は光をエネルギーへ変える。
昆虫は、私たちが入れないような狭い場所へ入っていく。
だから、すべてをコピーしなくてもいい、という考え方です。すでに存在する能力を見つけて、必要なところだけ人間が付け足す。
最初に瓦礫の隙間を抜けて、閉じ込められた人のところへたどり着く救急隊員。それがいつかゴキブリになるとしたら。
もちろん少し気味は悪いです。虫も自分の意思ではないから気の毒。
でも、かなり合理的でもあります。◾️
参考情報
University of Queensland, 27 August 2026.
Research published in Advanced Science.
Originally published on note: 2026-09-29 05:27:49 JST
Original source: https://note.com/proper_clam757/n/n5e666c8ecc44