カバー画像:Carl Spitzweg, The Bookworm, c. 1850(パブリックドメイン/出典)

『ミッドナイト・ライブラリー』は世界中で1000万部以上売れました。

その作者マット・ヘイグは、David Perell のポッドキャスト番組『How I Write』で、意外なことを言っています。

市場を見て「売れる本」を書こうとすると、むしろ売れなくなる

なぜか。

いま書店に並んでいる本は、いま生まれたものではないからです。数年前に企画され、書かれ、出版社に買われ、編集されたものが、ようやく店頭に並んでいる。

つまり、書店で「いま何が売れているか」を研究しても、見ているのは過去なのです。

では、何を基準に書けばいいのか。

作家 マット・ヘイグの答えは単純です。

自分が読みたい本を書く。

ただし、これは「読者など気にするな」という話ではありません。

ヘイグははっきり言います。

“I write to be read.”
自分は読まれるために書いている

面白いのは、その次です。

読者に合わせるのではない。
自分の中にあるものを、読者に理解してもらうために書く。

だから彼は、作家が陥る罠は二つあると言います。

一つは、売れようとしすぎること。
もう一つは、「立派な文学作家」に見られようとしすぎること。

前者では市場の顔色を見る。
後者では批評家の顔色を見る。

どちらも結局、他人に自分の文章を決めてもらっている。

ヘイグ自身、初期には「文学的な作家」として見られることを意識しすぎていたと振り返っています。転機になったのは、出版社から契約を切られた後に書いた『The Humans』でした。

「どうせ誰も読まないのなら、自分のために書こう」

そう思って書いた、ジャンル分けの難しい奇妙な小説が、それまでで最も成功した作品になった。

もちろん、「自分らしく書けば必ず売れる」という話ではありません。ヘイグ自身、『ミッドナイト・ライブラリー』は20冊目の本でした。20冊目…。

重要なのは、市場に合わせることと、読者に届くように書くことは違うということ。ヘイグは、良いコンセプトは一文で言えるほど単純であるべきだといいます。

『ミッドナイト・ライブラリー』なら、もし、選ばなかった別の人生を試せる図書館があったら?

扱っているのは後悔、死、幸福、人生の選択です。

テーマは重い。でも入口は明快。
文章でも彼は、home、sky、love のような短く、誰でも知っている言葉を好むと言います。

わかりやすくすることは、作品を薄くすることではない。むしろ難しいものを、読者が入れる形にする技術です。だから「文学か、売れる本か」という二択は、あまり意味がない。

もっと重要な問いがあります。

これは、本当に自分が読みたい本なのか。
そして、それを読者に届く形で書けているか。

読まれたい。
でも、市場には合わせない。

マット・ヘイグの1000万部は、一見矛盾しているようで、その二つが両立することを示しているのだと思いました。◾️

出典

David Perell, How I Write, “Matt Haig: How to Write a Book Millions of People Read,” August 27, 2026.

Matt Haig: How to Write a Book Millions of People Read


初出:note、2026年9月23日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年9月30日)。原文:https://note.com/proper_clam757/n/n0d6088d23402