英国のGuardian紙が、作家たちにこんな質問をしました。
学校で若者に一冊読ませるなら、何を選びますか?
背景には、若者の読書離れがあります。
英国のNational Literacy Trustによると、8〜18歳で「自由時間の読書を楽しんでいる」と答えた割合は、2025年に32.7%まで落ちました。2026年には36.1%へ少し戻りましたが、依然として低い水準です。
では、学校は何を読ませているのでしょう。
16歳前後が受けるGCSEの英文学では、76%の生徒がJ・B・プリーストリーの『An Inspector Calls』を学んでいます。19世紀小説では、93%がディケンズの『クリスマス・キャロル』か、スティーヴンソンの『ジキル博士とハイド氏』のどちらかです。
女性作家の作品を学ぶ生徒は、わずか5%でした。
もちろん、これらが悪い本なのではありません。
問題は、ほとんど同じ本を長いあいだ読み続けていることです。学校にはすでに本があります。教師には教材があります。過去問もあります。作品を替えれば、学校も教師も試験を作る側も準備をやり直さなければいけない。
つまり学校の「定番」は、文学的価値だけで残っているわけではありません。一度できた仕組みの変えにくさも、読書リストを固定しています。
そこで『Guardian』は、作家たちに別の本を選んでもらいました。選ばれた本を見ると、これがなかなか面白い。
フランク・コットレル=ボイスは、テッド・チャンのSF短編集『Stories of Your Life and Others(あなたの人生の物語)』を選びました。映画『メッセージ』の原作となった作品も入っています。
彼はこう言います。
“Teenagers love ideas.”
若者だから簡単な話を与えるのではなく、言語、愛、知性といった大きな問いやアイデアをぶつければいい。短編なら授業でも一緒に読みやすい、と考えています。
作家ヌサイバ・ユーニスが選んだのは、パーシヴァル・エヴェレットの『The Trees(赤く染まる木々)』です。人種差別やリンチという重い題材を扱いながら、非常におかしい小説でもある。文学は「真面目だから退屈」である必要はない、と彼女は考えます。
デイヴィッド・ミッチェルは、パトリック・ネスの『The Rest of Us Just Live Here』。普通の高校生たちが、不安や友情や恋愛に悩んでいる。その横で、別の「選ばれた若者たち」は世界を救うような大事件に巻き込まれている。ミッチェルは、この小説なら読書に消極的な若者にも、小説がゲームと同じくらい夢中になれるものだと伝えられると言います。
ベン・オクリは、36編を収めた『African Stories』を選びました。彼が問題視するのは、英国の生徒がアフリカをはじめとする非ヨーロッパ文学に触れる機会の少なさです。この一冊を、アフリカ文学へ入っていく入口にしたいと言います。
カミラ・シャムジーは、クレア・キーガンの『Small Things Like These(ほんのささやかなこと)』。短い小説ですが、家族、記憶、アイルランドのマグダレン洗濯所の歴史、そして一人の人間が何をするかという問題まで入っています。
短いことと、浅いことは違う。
そのことを教室で見せられる本です。
少し違う意見を出しているのが、ジェフ・ダイヤーです。彼が選んだのは、ジーン・リースの『Voyage in the Dark』。ダイヤーは、現代の若者が共感しやすい作品だけを選ぶことにも警戒します。文学教育には、文学がどのように変化してきたのかを伝える役割もあるからです。しかも彼の選び方が面白い。『Voyage in the Dark』を読めば、次にリースの『Wide Sargasso Sea』を読みたくなる。そしてそこからシャーロット・ブロンテの『Jane Eyre』へ行く。
一冊が、次の一冊につながっていきます。
この記事を読んでいて、私はここが一番気になりました。
読書リストを新しくする目的は、古典を追い出すことではない。
ディケンズも読む。
テッド・チャンも読む。
ジーン・リースからブロンテへ行く。
アフリカ文学にも入ってみる。
短編も、詩も、SFも読む。
そうやって文学の入口を増やした方がいい。
そして、私も選書の基準を一つ加えたくなりました。
この本を読んだあと、もう一冊読みたくなるだろうか。
学校で読む一冊が、試験が終われば二度と開かない本になるのか。それとも、その先にある別の本へ進む入口になるのか。
古典を残すか、新しい本へ替えるか。
本当の問題は、その二択ではないのだと思います。
学校で出会った本から、読書が続いていくか。
私なら、そこから読書リストを考えてみたいです。◾️
参考情報
Kate Mosse, “‘Bold, brilliant, thrilling’: leading authors on the novels every school should teach,” The Guardian, 5 September 2026.
National Literacy Trust, Children and young people’s reading in 2026.
End Sexism in Schools, Manopolies: How the education system embeds sexism in GCSE English Literature, 2025.
Originally published on note on 2026-09-22 07:24:55 JST.