725ページを超える大作。

 ガブリエル・ガルシア=マルケスの生涯と彼の作品についての膨大な記録。

 長編『百年の孤独』などの作品でラテンアメリカ文学を世界文学にまで押し上げた文豪の若き日の貧苦、ジャーナリストとしての日々、成功後のセレブたちとの交流、恋愛、名声とその対価、ノーベル賞受賞の裏話などなど。

 

 よくここまで調べたな、と思わせる鈍器系大著。

 

 1966年ごろ、自らについて紹介文をこんなふうに書いていたようだ。

 なんかいい。

 文章は字面は謙遜だが、自信がにじみ出ている。

 

 P. 400 

 私はガブリエル・ガルシア=マルケスといいます。残念ですが私自身が関与しようのなかったありふれた文字列にすぎないこの名前も好きになれません。40年前、私はコロンビアのアラカタカで生まれましたが、こちらはべつに残念と思っておりません。星座は魚座で、妻はメルセーデスといいます。この二つは私の人生でもっとも大切なもので、なぜならこの二つのおかげで少なくとも今日までもの書きとしてなんとか生き残ってこれたからです。

 私が作家になったのは、小心者だからです。本来の転職はマジシャンなのですが、いざ芸を披露するとなると慌ててふためいてしまうので、結局ひとりになれる文学に逃げ場を求めざるを得ませんでした。いずれにしても、どちらの職業も子供の頃から興味を持ってきたたったひとつのこと、つまりものを書くことにつながっていますが、それは友人たちに私をもっと愛してほしいという思いがあったからなのです。

 私の場合、文章を書くのが苦手なので、もの書きになったことは、僥倖というほかありません。半ページの文章を書くのに8時間も難行苦行をしなければいけないのです。一つひとつの言葉と体を張って格闘して、ほとんどいつも私は負かされます。ただ、強情なところがあるので、この20年間でなんとか4冊の本を出すことができました。目下執筆中の5冊目の本は、これまでの作品よりも時間がかかっています。というのも、銀行の口座からの引き落としとほかにも困った問題があって、自由な時間があまりとれないからです。

 文学に関して私にはそれが何かわかりませんし、そもそも文学がなくても世界は今と同じだと確信しているので、けっして語ることはありません。他方、警察がなければ、世界はまったく違うものになると確信しています。ですから、私が作家でなくテロリストだったら、人類にとってはるかに役立つ人間になっていたと思うのです。