2025年ロングリスト作家たちの再読リストから

年末年始が近づくと、「何を読もうか」と考えます。

新刊、話題作、積んだままの本。

選択肢はいくらでもあります。

出版各社も一年を振り返って、ランキングをつけて発表していますね。

この時期の楽しみの一つです。

 

~2025年の傑作ミステリー小説ベスト20を発表!~『このミステリーがすごい!2026年版』12/5発売
人気ゲーム『都市伝説解体センター』制作陣とミステリー作家の座談会も収録 

 

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002343.000005069.html

 

ミステリマガジン2026年1月号

https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000712601/

 

イギリスやアメリカではこんな感じ。

https://www.theguardian.com/culture/ng-interactive/2025/dec/06/the-best-books-of-2025

 

https://www.nytimes.com/2025/11/24/books/notable-books.html

最近だと、オバマ元大統領ビル・ゲイツが発表する毎年の選本も話題になりますね。

画像
https://barackobama.medium.com/here-are-my-favorite-books-movies-and-music-of-2025-7139a0bdaf5b

そんな中で、またひとつ興味深い記事を読みました。

The Booker Prize HPから、

The Booker Prize 2025 longlisted authors on the books they reread again and again

ブッカー賞の2025年ロングリストに選ばれた作家たちが、「何度も読み返している本」を語るという記事です。

ここで語られているのは、今年のおすすめ本リストでも、教養案内でもありません。

作家たちが創作の途中で何度も立ち戻ってきた本たちです。

目次

2025年ロングリスト作家たちの再読リストから
 時代が変わっても、人はあまり変わらない
 書き手にとって、名作は「基準点」になる
 移民の物語は、幽霊の物語でもある
 短い小説に、なぜこれほど多くが詰まっているのか
 登場人物の見え方の変化
 構造への気づき
 記憶そのものが変わっていく読書
 読み尽くせない作品とともに生きる
 共感と倫理の複雑さ
 文体の校正としての再読
 見ることを学ぶための本

本が変わるのではなく、読者が変わる

私たちは、どの本に戻るだろうか

 

 


時代が変わっても、人はあまり変わらない

まず登場するのは、本年度ブッカー賞受賞作家の David Szalay です。

彼が「何度も読み返す」と語るのは、The Diaries of Samuel Pepys

17世紀ロンドンの官僚サミュエル・ピープスの日記です。

理由はとても率直で、「ほんの数ページのつもりが、一時間読んでしまうから」。

 

当時と現代の違いも面白いけれど、それ以上に、人間の振る舞いが驚くほど似ている。

欲望、野心、自己正当化。

時代が変わっても、人はあまり変わらないことがわかるといいます。

 

ピープスについては、こちらの日経記事もとても分かりやすく説明してくれています。

一度ちゃんと読んでみたいと思ってました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD0194W0R00C24A4000000/

 


 

 

書き手にとって、名作は「基準点」になる

2025年 ブッカー賞 ロングリスト作家の一人、Benjamin Wood が挙げているのは、In Cold Blood (トルーマン・カポーティ)です。

彼は、この本を「インスピレーションの源」としてではなく、机の上に置き、ランダムに開いて読むと言います。

読むたびに、文章のリズム、描写の精度、一つひとつの細部が全体にどう意味を与えているかがわかるのだと。

名作は、感動するためのものではなく、自分の文章がずれていないかを確かめるための基準にもなる、ということかもしれません。

これは書き手ならではの、非常に実践的な読み方だと思います。

 


移民の物語は、幽霊の物語でもある

過去に実際にブッカー賞も受賞している Kiran Desai の言葉も印象的です。

彼女が何度も読み返している本として挙げるのは、Pedro Paramo(フアン・ルルフォ)。

生者と死者の声が入り混じり、過去が現在に割り込んでくるこの小説について、彼女はこう語ります。

移民の物語は、幽霊の物語でもある。

語られなかった歴史。

回収されなかった正義。

それらが、何度読んでも別の形で立ち上がってくるのだと。

 

再読とは、同じ物語をなぞる行為ではなく、

時間を経た自分自身が、その物語と再会する行為

なのだと気づかされます。

 


 

短い小説に、なぜこれほど多くが詰まっているのか

ロングリスト作家の Susan Choi は、短編的な小説を何度も読み返すと語っています。

挙げられているのは、The Great Gatsby や The Prime of Miss Jean Brodie

短いにもかかわらず、読み返すたびに「こんな層があったのか」と驚かされるそうです。

作者がどれほど多くを、限られたページ数に折り込んでいるかが見えてくるから、と。

そう考えると、再読は、作品の奥行きを測る行為でもありますね。

 


 

登場人物の見え方の変化

Ben Markovits が挙げるのは、Pnin (ウラジーミル・ナボコフ)。

彼は、この小説はロシア人とアメリカ人の文化的ギャップを描きながら、誤解や滑稽さの背後に、深い温かさを湛えていると評価。

ナボコフの技巧だけでなく、人物の見え方が変わっていく小説だからこそ、何度も読み返したくなるということのようです。


 

構造への気づき

Katie Kitamura が挙げるのは、 The Portrait of a Lady と The Good Soldier

前者は、読むたびに印象が変わる本。

後者は、一見すると緩やかに見える構造が、再読するほど精緻に見えてくる本だといいます。

再読によって初めて見えてくる構造 の存在というのもとても興味深いです。

 

 

 


記憶そのものが変わっていく読書

Tash Aw が再読しているのは、 In Search of Lost Time(マルセル・プルースト)。

この長大な作品は、繰り返し読むことを前提としていて、時間が経つにつれ、登場人物や場面の記憶が魔法のように変わっていく、と評価します。

再読は、記憶そのものを問い直す行為 ともいえますね。

 

 


 

読み尽くせない作品とともに生きる

Jonathan Buckley は、Ulysses や Finnegans Wake を何度も読み返していると語ります。

さらに、The Divine Comedy を、毎年一日一章ずつ読む習慣を続けているそう。

読み尽くせない作品と、長い時間をともに生きる。

それもまた、再読の一つの形ということかもしれません。

 


 

共感と倫理の複雑さ

Ledia Xhoga が挙げるのは、Middlemarch (ジョージ・エリオット)。

主人公ドロシア・ブルックの共感力と敬虔さ、その動機の複雑さに、読むたびに新しい発見があると語ります。

 


文体の校正としての再読

Maria Reva が挙げるのは、The Copenhagen Trilogy (トーヴェ・ディトレウセン)。

文が重くなりすぎたと感じたとき、彼女はこの本に戻るそうです。簡潔で即時的な文体が、自分の文章を整えてくれるからと。

再読は、文体のチューニングでもありますね。

 

参考)https://magazine.msz.co.jp/single/toveditlevsen/

 


見ることを学ぶための本

Claire Adam が挙げるのは、The Enigma of Arrival (V.S. ナイポール)。

これは、見ること、理解することを学ぶ旅の記録。
評価が分かれる作家であることを認めたうえで、それでも多くを学んだと語っています。

 


本が変わるのではなく、読者が変わる

多くの作家が共通して語っているのは、「読むたびに、違うものが見える」という感覚です。

若い頃には理解できなかった人物が、ある年齢になると突然リアルになる。

逆に、昔は共感していた価値観に、距離を感じることもある。

本が変わるのではなく、読む側が変わる

だからこそ、作家たちは同じ本に何度も戻っていくのだと思います。

 


私たちは、どの本に戻るだろうか

この記事が示しているのは、「たくさんの本を読むこと」よりも、「戻る場所を持つための一冊」の大切さです。

もし次に読む本を迷っているなら、この冬休みは、新しい一冊ではなく、昔読んだ一冊を手に取ってみるのも悪くないかも、ですね。

途中で投げ出した古典。

よくわからなかった小説。

昔は好きになれなかった本。

 

それらは今の自分に向けて、別の顔を見せてくれるかもしれません。

 

ブッカー賞作家たちは、そのことを理屈ではなく、自分の読書習慣として静かに示している気がしました。■

 

 

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The Booker Prize 2025 longlisted authors on the books they reread again and again
https://thebookerprizes.com/the-booker-library/features/the-booker-prize-2025-longlisted-authors-on-the-books-they-reread-again

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