さて、今年のブッカー賞、受賞作が決定した。

アイルランドの作家、ポール・リンチの『Prophet Song』だ。

 

 

★受賞作発表の瞬間↓

 
 
 
 
 
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内容は世界的な紛争と政治的な地殻変動にフォーカスを当てた小説で、候補作の中で最もタイムリーで緊急性の高い本といえる。

大上段に構えず、一人の女性が家族への深い愛と、ますます混沌としていく状況に苦闘しながらも、身の回りの世界にしがみつこうとする絶望的な試みという、ある意味で身近で人間の本質に立ち返るストーリーになっているという。

 

 

さて、今年のブッカー賞関連で今分かっていることを、少しばかり書いておこう。

 

選考委員長 Esi Edugyan 氏による選考決定コメント(要約):

 ・本書はアイルランドが全体主義に向かう中で、家族を守ろうとする女性が直面する恐ろしい状況を追いかけていく物語です。
 ・最初からずっと不安を感じさせられ、リンチの世界には強烈な閉所恐怖が漂っています。
 ・彼は国家の暴力や避難の現実を遠慮なく描写し、そこに安易な慰めはありません。
 ・文章は極限まで引き伸ばされ、リンチは見事な言葉の技を見せています。
 ・彼は詩人の心を持ち、繰り返しやモチーフの巧みな使用によって、読者を官能的な体験に引き込みます。
 ・感情豊かなストーリーテリングの勝利、文体は力強く勇敢です。
 ・本作は現代の社会的・政治的な不安を生き生きと捉えています。

 

ポールとはどんな人物か?:

 ・ポール・リンチは1977年にアイルランド・リムリックで生まれ、現在はダブリンに住んでいます。
 ・彼はかつてアイルランドのサンデー・トリビューン新聞の主席映画評論家を2007年から2011年までつとめ、映画に関する記事を日曜タイムズにも執筆していました。
 ・国際的に高く評価されているアイルランドの小説家で、これまでに5つの小説を発表し、その過程でいくつかの賞を受賞しています。

 

ポールが本書について語ったこと:

 ・私は現代の混沌を見ようとした。
 ・西洋の民主主義の不安、シリアの問題—国家全体の崩壊、その難民危機の規模、そして西洋の無関心。
 ・本作は、ある意味で根本的な共感の試みだ。
 ・より良く理解するためには、問題を自分たちで経験しなければならない。
 ・だから私は、それに高いリアリズムをもたらすことで、ディストピアを深めようとした。
 ・読者が本書を読み終わるまでに、ただ知っているだけでなく、この問題を自分で感じることができるほど、読者の没入感を深めたかった。

 

 

 

★受賞スピーチの様子

 
 
 
 
 
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スピーチではこんなことを言っている。

・本作は書くのが簡単な本ではなかった。
・(内容的にも)自分のキャリアを賭した本になると思った。
・イエスの使途トマスによる福音書を引用し、
 「もしあなたが自分の中にあるものを出すなら、出したものがあなたを救うだろう。もし、あなたの中にあるものを出さなければ、出さなかったものがあなたを滅ぼすだろう」
 と述べ、書くことが私を救った、とのこと。

 

 

物語の国アイルランドから、また一人新たな世界的作家が出てきた。

 

作品も読んでみよう。

 

 

情報源:Everything you need to know about Prophet Song, winner of the Booker Prize 2023

 

ブッカー賞のHPからは、アイルランドの女優 カトリーナ・バルフ による本作の朗読を見ることができる。

 

 

★各候補者の執筆風景↓✍