認知機能を長く保つための実践メモ

「脳をシャープに保つには、何をすればいいのでしょうか」

そう聞かれると、多くの人はまず、脳トレ、読書、勉強、サプリメントなどを思い浮かべるかもしれません。

しかし、Tim Ferriss のブログに掲載された Dr. Tommy Wood の記事を読むと、脳の健康はそれほど単純ではないことがわかります。

https://tim.blog/2026/04/24/how-to-keep-your-brain-sharp/

Tim Ferrissは、世界的ベストセラー『The 4-Hour Workweek』で知られる作家・ポッドキャスターです。私の note でも何度も取り上げています。
同書は New York Times や Wall Street Journal のベストセラーとして紹介されており、仕事術、自己実験、生産性、健康、学習法などの領域で大きな影響力を持ってきました。

一方、Dr. Tommy Wood は、ワシントン大学の小児科・神経科学の准教授です。彼の研究は、生涯にわたる脳の健康、脳損傷、認知機能、認知低下に関わる要因に焦点を当てています。 さらに、2026年には脳の健康をテーマにした著書 The Stimulated Mind: Future-Proof Your Brain from Dementia and Stay Sharp at Any Age を刊行しています。

この記事は、単なる健康ハックではありません。

自己改善や実験的な生活設計を長年扱い実践してきた Tim Ferriss と、脳科学の研究者である Tommy Wood が、認知機能を長く保つための実践知を整理したものです。

そして、その中心にある考え方は、とてもシンプルです。

脳を鍛える前に、脳が働ける環境を整える。

栄養、空気、水、歯、耳、目、睡眠、感染症、運動、趣味、ゲーム。
一見すると脳と関係なさそうなものが、実は長期的な脳の健康に関わっています。

この記事は、いわば「脳を長く使い続けるためのメンテナンス表」のようなものです。

認知症は、完全な運命ではない

まず大事なのは、認知症に対する見方が変わりつつあるという点です。

記事では、ここ5〜10年で、認知症や認知機能の低下は「避けられないもの」ではなく、「予防できる可能性があるもの」として考えられるようになってきた、と説明されています。

Lancet Commission* の分析では、認知症の少なくとも 45% は、修正可能なリスク要因に関係している可能性があるとされています。

* ランセット・コミッション(Lancet Commission)は、医学誌『The Lancet』が組織する、世界的な保健医療課題の解決を目指す専門家委員会。健康投資、ジェンダー、外科手術、癌、神経リハビリテーションなど多岐にわたるテーマで、包括的なレビューと政策提言を行い、世界保健の未来に向けた「行動マニフェスト」を策定。

たとえば、予防できるそうなものとして、次のようなものが挙げられています。

  • 教育不足
  • 聴力低下
  • 視力低下
  • 高LDLコレステロール
  • 頭部外傷
  • 運動不足
  • 糖尿病
  • 喫煙
  • 高血圧
  • 肥満
  • 過度の飲酒
  • 社会的孤立
  • うつ
  • 空気汚染

もちろん、これらですべてが説明できるわけではありません。
ただ、少なくとも「何もできない」と考える必要はない、ということですね。

脳の健康は、日々の小さな選択の積み重ねで変えられる可能性があります。

Bビタミン と オメガ3は、一緒に考える

記事で最初に紹介されているのが、Bビタミン と オメガ3脂肪酸 の話です。

B12、葉酸、B6、B2などのBビタミンは、ホモシステインという物質を下げる働きに関係します。ホモシステインが高い状態は、脳の萎縮や認知機能の低下と関係する可能性があります。

一方、EPA や DHA などのオメガ3脂肪酸も、脳の健康に関係します。

ただし、この記事で面白いのは、Bビタミン と オメガ3 を別々に見るのではなく、セットで見る という点です。

VITACOG* という研究では、ホモシステインが高い人にB12、葉酸、B6を含むサプリメントを使ったところ、脳の萎縮や認知機能の低下が遅くなりました。
* VITACOG(ヴィタコグ)試験は、英国オックスフォード大学が実施した、軽度認知障害(MCI)の高齢者を対象とした画期的な臨床試験。高用量のビタミンB群(葉酸、B6、B12)がホモシステイン(アミノ酸の一種)を低下させ、脳萎縮を最大30%〜53%抑制し、認知機能低下を遅らせることを証明。

しかし、その効果は、オメガ3 の状態が十分な人に見られたとされています。

つまり、Bビタミンだけ、オメガ3だけ、という単純な話ではないようです。
両方の状態がそろっていることが大事かもしれないのです。

記事では、目安として次の数値が紹介されています。

[画像省略:記事内で紹介されている目安]

ここで大事なのは、いきなりサプリを増やすことではありません。

まず、自分の状態を知ることです。
記事でも、ホモシステイン や オメガ 3の状態は、医師や検査キットで確認できると紹介されています。

空気も、脳に関係しています

次に出てくるのが、空気の話です。

空気汚染は、Lancet Commission の認知症リスク要因にも含まれています。道路、産業活動、山火事などから出る微粒子や窒素酸化物、オゾンなどが、炎症や酸化ストレスにつながる可能性があると説明されています。

とはいえ、空気の悪い地域から簡単に引っ越せる人ばかりではありません。

そこで記事が提案しているのは、現実的な対策です。

たとえば、山火事などで煙がひどい日は N95 マスクを使う。
また、自宅やよく過ごす部屋に空気清浄機を置く。

特に興味深いのは、室内の空気です。
記事では、室内空気は屋外よりも悪い場合があるとされています。

HEPA フィルターを使った空気清浄機が血圧を下げたという研究も紹介されています。血圧は認知症リスクと関係するため、空気清浄機は「一度置けば続けやすい対策」として紹介されています。

また、Tim Ferriss の補足では、ホテルの CO₂ 濃度にも触れられています。
窓が開かないホテルでは、CO₂ 濃度がかなり高くなることがあり、認知テストの成績は CO₂ 濃度が高い環境で下がる可能性があると説明されています。

だから、ホテルを予約するときに「窓が開くか」を確認する、という実践も紹介されています。

これは地味ですが、かなり実用的です。

水にも注意する

水についても、記事は慎重に扱っています。

自治体の水道水は基本的に安全だとしつつ、地域や配管によっては、鉛やPFAS(有機フッ素化合物)などの汚染物質が問題になる可能性があると説明されています。

鉛は認知症リスクとの関連が指摘されています。
PFAS は「forever chemicals」と呼ばれ、食品包装、古いまたは傷んだノンスティック調理器具、飲料水などに含まれる場合があるとされています。

記事では、地域の水質を調べ、必要であれば浄水器を使うことが提案されています。

冷蔵庫に入れるジャグ型の浄水器や、シンク下に設置する逆浸透膜タイプの浄水器などが紹介されています。

ポイントは、完璧を目指すことではありません。
毎日飲む水だからこそ、少し整えるだけでも長期的な意味がある、という考え方です。

マイクロプラスチックは、怖がりすぎず、減らす

マイクロプラスチック についての記事の姿勢は、かなり冷静です。

最近、私たちは毎週クレジットカード1枚分のマイクロプラスチックを摂取している、という話が広まりました。
しかし記事では、その推計に対して、実際はその 0.0001% 未満かもしれないという再分析も紹介されています。

また、血管や脳にマイクロプラスチックが見つかったという研究もあります。認知症の人の脳では多かったという研究も紹介されています。

ただし、著者はここで断定していません。

マイクロプラスチック が認知症の原因なのか。
それとも、認知症や血管の問題によって脳にたまりやすくなった結果なのか。
まだわからない、と説明しています。

さらに、測定方法にも議論があると書かれています。

それでも、プラスチックに含まれるビスフェノールやフタル酸エステルなどは、子どもの神経発達や大人の心疾患との関連が指摘されています。

そのため、記事では次のような現実的な対策が紹介されています。

  • ペットボトル水より、ろ過した水道水を使う
  • プラスチック容器で食品を保存しない
  • 電子レンジでプラスチック容器を加熱しない
  • ガラス容器を使う
  • 木製や金属製の調理器具を使う
  • プラスチック包装されていない新鮮な食品を増やす

また、ベリー類に含まれるアントシアニンや、オーツ麦・きのこに含まれるβグルカンが、プラスチック や PFAS の悪影響を抑える可能性も紹介されています。

ただし、これらは動物実験や試験管での研究も含まれており、人間での臨床試験はまだ十分ではないとされています。

それでも、食物繊維やベリー類を増やすこと自体は、脳にもよい可能性があると紹介されています。

歯ぐきの健康は、脳の健康にも関係する

記事の中で、かなり印象に残るのが口腔ケアの話です。

歯や歯ぐきの問題は、口の中だけの問題ではないかもしれません。

歯周病は、歯ぐきの炎症から始まり、やがて靭帯や骨にも影響することがあります。
その原因には、口の中の細菌バランスの乱れが関係しています。

記事では、Porphyromonas gingivalis(口腔の二大感染症の一つである歯周病の原因菌として非常に有名な細菌であり、歯周病原性細菌と呼ばれている) や Streptococcus mutans(グラム陽性で通性嫌気性のレンサ球菌の一種である。ヒトの口腔内にも存在し、う蝕(虫歯)の原因菌のひとつ) などの細菌が紹介されています。

20年以上前には、P. gingivalis が動脈硬化のプラークから見つかっています。
また、アルツハイマー病の人の脳内にあるアミロイド斑からも見つかっているとされています。

もちろん、これだけで歯周病が認知症の原因だと決めることはできません。
ただ、歯周病と認知機能低下や認知症リスクの関連を示す研究やメタ分析が紹介されています。

では、何をすればよいのでしょうか。

記事の提案は、とても普通です。

  • 1日2回、2分以上歯を磨く
  • フロス、水フロス、歯間ブラシを使う
  • 年に数回、歯科医や歯科衛生士に診てもらう
  • 歯周病があれば早く治療する
  • 必要に応じてキシリトールガムやマウスウォッシュを使う

高価な健康法より、まず歯を大切にする。
これは、かなり現実的な脳の健康対策です。

本当に意味がありそうな脳トレは「処理速度」を鍛えるもの

脳トレについても、記事は具体的です。

ポイントは、単なる記憶トレーニングではなく、処理速度 です。

処理速度とは、情報をすばやく認識し、判断する力です。
これは、運転、スポーツ、意思決定、記憶など、さまざまな活動に関わります。

記事では、ACTIVE 研究という大規模研究が紹介されています。
65歳以上の 2,800人 を対象に、記憶、推論、処理速度のトレーニングを比較した研究です。

参加者は、5〜6週間で10回ほどのトレーニングを受け、その後1年後と3年後に追加トレーニングを受けました。

5年後、3つのトレーニング群はいずれも生活の質の低下が少なく、特に処理速度トレーニングの効果が大きかったとされています。

さらに、20年後の追跡では、処理速度トレーニングを受けた人たちの認知症リスクが低かったと紹介されています。

ここで紹介されている処理速度トレーニングの一例が、BrainHQに含まれる “Double Decision” という課題です。画面中央の対象を見分けながら、周辺の対象も探すというものです。

ただし、記事は専用アプリだけを勧めているわけではありません。

処理速度や集中力を使う活動なら、いろいろな可能性があります。

  • 楽器
  • ダンス
  • スポーツ
  • 武道
  • 脳トレ
  • ビデオゲーム

特に面白いのは、ビデオゲームの話です。

記事では、StarCraft II、Super Mario 3D World、Minecraft などが紹介されています。
これらのゲームは、複雑な世界を移動し、問題を解き、すばやく反応し、戦略を立てる必要があります。

ある研究では、60〜80歳の大人が、ソリティア、Angry Birds、スーパーマリオ 3D World をそれぞれ4週間プレイしました。その結果、スーパーマリオ のグループでは、海馬の機能に関わるテストで改善が見られたと紹介されています。

つまり、脳によい活動は、いかにも真面目な勉強だけではないのです。

大切なのは、集中し、すばやく反応し、少しずつ上達することです。

耳と目を放置しない

聴力と視力の低下も、認知症リスクと関係すると記事では説明されています。

これは、単に「聞こえない」「見えない」という話ではありません。

耳が聞こえにくくなると、人との会話が減ります。
目が見えにくくなると、外出や活動が減ります。
その結果、脳への刺激が少なくなります。

記事では、聴力や視力の低下は、認知症リスクを高める可能性がある一方で、補聴器や白内障手術などによって、そのリスクが下がる可能性も紹介されています。

つまり、聞こえにくさや見えにくさを我慢しないことが大切です。

耳と目は、脳への入口です。
入口が閉じていくと、脳への刺激も減ってしまいます。

病気や入院で「刺激」が失われることも問題です

記事では、病気や入院による認知機能への影響にも触れています。

65歳以上の人を対象にした研究では、入院を経験すると、その後の認知機能低下が速くなる傾向があるとされています。
また、健康な人でも、2週間の強制的なベッドレストによって認知機能が下がるという研究も紹介されています。

ここで重要なのは、病気そのものだけではありません。

病気になると、体を動かせません。
外に出られません。
人と話す機会が減ります。
趣味も仕事も止まります。

つまり、身体的・認知的な刺激が一気に減るのです。

記事では、こうした「刺激を受けられない期間」の積み重ねが、長期的な脳の健康に影響する可能性があると説明されています。

その文脈で、帯状疱疹ワクチンの話も出てきます。

ウェールズでは、生年月日によって帯状疱疹ワクチンの接種対象が分かれたため、ワクチンの効果を比較しやすい状況がありました。その結果、ワクチン対象者では帯状疱疹の診断が減り、認知症の診断も減ったと紹介されています。

同じような関連は、オーストラリア、米国、カナダのデータでも見られたとされています。

もちろん、著者は「決定的な研究を待つ必要がある」としています。
それでも、加齢とともに長く寝込むような病気を減らすことは、脳の健康にも意味がある可能性があります。

睡眠は、やはり最重要です

最後に睡眠です。

記事では、睡眠不足は認知症リスクとしてかなり確立しているとされています。

ただし、著者は一般的な睡眠アドバイスを長々とは繰り返していません。
基本として、次のようなことが挙げられています。

  • 寝室を涼しく暗くする
  • 朝の光を浴びる
  • 夜は照明を落とす
  • 寝る前に温かいシャワーや入浴をする
  • 睡眠マスクを使う
  • 必要に応じてマグネシウムを検討する
  • 十分な睡眠時間を確保する
  • 寝室の換気や空気の質に気をつける

特に、寝室のCO₂濃度が上がると深い睡眠が悪化する可能性があるという点は、見落としがちです。

さらに、記事ではいくつかの補助的な方法も紹介されています。

朝に外に出る時間が取れない人には、10,000 ルクス程度のライトボックスや、光療法用のメガネが紹介されています。

また、就寝前に使う可能性のあるものとして、次の成分も挙げられています。

[画像省略:記事にで紹介されいている内容]

また、血液検査も勧められています。

ホモシステインを測るついでに、CBC* や鉄の検査も行い、貧血や鉄不足を確認する。
* CBC = 全血球計算(Complete Blood Count)は、血液中の赤血球、白血球、血小板の数や性状を調べる基本的な血液検査。貧血、炎症、感染症、血液疾患(白血病など)のスクリーニングに必須、健康診断や病気の診断・経過観察で一般的に行われます。

ヘモグロビンが低すぎる場合は認知症リスクと関連し、高すぎる場合は睡眠時無呼吸が原因のこともあると説明されています。

睡眠は、気合いで削るものではありません。
脳を保つための土台です。

結局、何から始めればいいのか

この記事は情報量が多いので、全部を一度にやろうとすると疲れてしまいます。

でも、実践の方向性はわかりやすいです。

まずは、生活の土台を整えることです。

よく眠る。
歯を磨く。
歯科検診に行く。
空気を整える。
水を整える。
耳と目を放置しない。
病気で長く動けなくなるリスクを減らす。
そして、脳に刺激を与える活動を続ける。

脳の健康というと、どうしても「頭を使うこと」ばかり考えてしまいます。

しかし、この記事を読むと、脳は孤立した臓器ではないことがよくわかります。

脳は、空気を吸い、水を飲み、血液に支えられ、耳と目から世界を受け取り、睡眠で回復し、身体の動きや人との関わりによって刺激され続けています。

だから、脳を守るとは、生活全体を整えることなのです。

脳を鍛える前に、脳が働ける環境をつくる

この記事から得られるいちばん大きな学びは、これだと思います。

脳を鍛える前に、脳が働ける環境をつくる。

脳トレをする前に、眠れているか。
サプリを飲む前に、検査しているか。
勉強を増やす前に、耳や目を放置していないか。
健康法を探す前に、歯ぐきの炎症を放っていないか。
集中力を責める前に、部屋の空気は悪くないか。

脳の健康は、特別なことだけで守られるわけではありません。

むしろ、毎日の小さな環境づくりの中にあります。

よく眠る。
よく噛む。
よく歩く。
よく聞く。
よく見る。
よく動く。
ときどき新しいことに挑戦する。

それが、年齢を重ねても世界を面白がる力を失わないための、いちばん現実的な方法なのかもしれません。■

参考記事:

https://tim.blog/2026/04/24/how-to-keep-your-brain-sharp/


初出:note、2026年4月28日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年10月15日)。原文に掲載されている第三者の画像は、権利上の理由により本アーカイブでは省略しています。原文:https://note.com/proper_clam757/n/n75b1742ef89a

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