カバー画像:Kemoi Brown / Unsplash(Unsplash License)

2026年9月7日、ジャマイカ政府は英国王 King Charles III(チャールズ国王)に請願書を提出しました。

求めているのは、英国に今すぐ賠償金を払わせることではありません。

まず問いたいのは、もっと根本的なことでした。

  • アフリカから人々を連れ去り、ジャマイカで奴隷にしたことは、当時の英国法で本当に合法だったのか。
  • 国際法には反していなかったのか。
  • そして英国には、現在も何らかの法的な救済義務があるのか。

ジャマイカ政府は、この三つの問いを英国のJudicial Committee of the Privy Council(枢密院司法委員会)*に付託するよう国王に求めています。

*枢密院司法委員会(Judicial Committee of the Privy Council, JCPC)とは、イギリスの王室属領や海外領土、一部の英連邦(コモンウェルス)諸国などの最高上訴裁判所(最終審の裁判所)です。なお、Privy Councilは英国にある裁判機関で、現在もジャマイカの最高位の上訴裁判所となっています。

ここが、このニュースの面白いところです。

ジャマイカは、かつての帝国から受け継いだ制度を捨てるのではありません。その制度を使って、帝国時代の行為そのものを問い直そうとしています。

背景には、1781年のZong号事件があります。
奴隷にされた130人以上のアフリカ人が航海中に海へ投げ捨てられました。その後、英国で争われたのは殺人そのものではなく、船主が「失った貨物」として保険金を請求できるかどうかでした。酷い話です。

人間が、法律の中で財産として扱われていた時代です。

ジャマイカのオリビア・グレンジ文化相は今回、Zong号事件を意識しながら、もう一度英国の法制度に正義を求めると説明しています。

もちろん、この請願がそのまま認められるとは限りません。

先ほどの三つの質問が実際にPrivy Councilへ送られるのか。仮に奴隷制が当時の法でも違法だったと判断されたとして、それが現在の賠償義務にどうつながるのか。まだ分からないことは多くあります。

それでもこの動きには興味深い点があります。
制度は、作った側のためにしか使えないのでしょうか。
それとも、時代が変われば、その制度を受け継いだ側が、過去の権力そのものを問い直すこともできるのでしょうか。

帝国が残した裁判所で、帝国を裁く。

ジャマイカはいま、その可能性を試そうとしているのだと思います。◾️

参考情報

Jamaica Ministry of Culture, Gender, Entertainment and Sport, “Grange leading reparations delegation to the UK,” 4 September 2026.

Jamaica Information Service, “Jamaica to Petition King Charles III for Privy Council Ruling on Slavery Reparations.”

Royal Museums Greenwich, records relating to the Zong case.


初出:note、2026年9月27日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年10月4日)。原文:https://note.com/proper_clam757/n/n4a216405d9f0

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