Rick Rubinという音楽プロデューサーがいます(上の写真、右)。1980年代にDef Jam Recordingsを共同で立ち上げ、その後、Beastie Boys、Johnny Cash、Red Hot Chili Peppers、Adeleなど、まったく違う音楽をつくる人たちと仕事をしてきた人です。
2023年には、長年の経験から考えた創作論を『The Creative Act』という本にまとめています。
私もこれまで何回も取り上げてきました。
そのRubinが、Andrew Huberman のポッドキャストで創造性について話していました(写真、左)。Huberman は、スタンフォード大学医学部で神経生物学を研究する教授です。「Huberman Lab」という番組を通じて、脳や睡眠、集中、運動などについて研究者や専門家との対話を続けています。(Huberman Lab)
この人の番組もオススメです。
2026年8月に公開された番組の短縮版で、Rubinが創作について面白い話をしています。
創作には、四つの段階があるといいます。
1)最初は、種を集める時間。
本を読んでいて気になったこと。
人との会話。
映画。
音楽。
「もっと知りたい」と思った何か。
Rubin 自身、この種を集める「seed collecting」は、何かをつくっているときだけではなく、普段からずっと続けていると言います。そして、この段階には締切を置きません。
2)次は、試してみる時間です。
集めた種から何が生まれるのかを見ていく。
Rubin は、ここで植物の比喩を使います。
種を植える。
水をやる。
日に当てる。
そこまではできる。
でも、人間が植物に「育て」と命令することはできません。
創作も同じだというんですよね。
条件はつくれる。
でも、何が生まれるのかを最初から決めることはできない。
3)何かが育ってきたら、形をつくる時間に入ります。
削る。
組み合わせる。
構成する。
ここでは、つくり手の技術が働きます。
4)そして最後が、完成させる時間です。
完成段階まで来たら、締切を置いても作品を傷つけない。むしろ、締切が助けになることさえある。
Rubin自身、そのことを以前は分かっていなかったと言います。実験段階では締切を置かないことがとても大切なので、同じことが作品づくりの最後まで当てはまると思っていた。そのため、必要以上に長くかかった作品もあったそうです。
つまり、彼が言っているのは、
締切が悪いのではない。
創作のどの段階にいるのかによって、締切との付き合い方が違う。
ということですなんですね。
ここまでは、Rubin の話です。
ここから、私は別のことを考えました。
生成AI を使うようになってから、私たちは「完成させる」ことだけは驚くほど速くなりました。
ニュースを渡せば要約ができる。
いくつかの資料を渡せば構成案ができる。
一つのアイデアから、数秒で文章らしいものまでつくれる。
便利です。
でも、Rubin の四段階で考えると、一つ気づきます。
AI が速くしたのは、主に後半です。
文章にする。
構成する。
直す。
完成させる。
では、その前にある、
「なぜ私はこれが気になったのだろう」
「この出来事は、以前読んだあの話とつながるのではないか」
「最初に考えていたことは、本当に正しいのだろうか」
という時間まで、同じように速くしてよいのでしょうか。
そうではないと思います。
文章ができる速さと、考えが育つ速さは同じではありません。
むしろ文章を簡単につくれるようになったからこそ、私たちは以前より意識して、まだ文章にしない時間を持ったほうがいい。
気になるものを拾う。
少し置いておく。
別のものと並べてみる。
分からなければ、分からないまま持っておく。
そして、「私はこれを書きたい」と見えてきたら、今度は迷わずつくる。
削る。
確かめる。
終わらせる。
Rubin から学べるのは締切術ではありません。
もっと単純なことです。
つまり、まだ育っていない考えを、急いで作品にしない。育った作品を、いつまでも完成させずに持っておかない。
創造には、待つ時間があります。
そして、終わらせる時間があります。
大切なのは、その二つを見分けることなのだと思います。◾️
参考情報
Huberman Lab, “Essentials: How to Access Your Creativity | Rick Rubin,” August 20, 2026.
Rick Rubin, The Creative Act: A Way of Being, Penguin Press, 2023.
Originally published on note on 2026-09-26 05:29:50 JST.