スタンフォード大学のBob Sutton(ボブ・サットン)教授に学ぶ、良いフリクションと悪いフリクション

組織で働いていると、誰もが一度はこう思います。

「なぜ、こんなに面倒なのか」

会議が多い。メールが長い。承認が遅い。システムが使いにくい。
部署をまたぐと話が進まない。

こうした面倒くささを、Bob Sutton は「フリクション」と呼びます。

こちらの投稿でも詳しく書きました。
ぜひご覧ください。

https://note.com/proper_clam757/n/n4ff2a95f8b26

Sutton はスタンフォード大学の名誉教授で、組織心理学やリーダーシップ研究で知られる人物です。
組織論の大家なので著書を読まれたことがある方もいらっしゃると思います。
たとえば、

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%89%E3%81%AE%E6%95%99%E6%8E%88%E3%81%8C%E6%95%99%E3%81%88%E3%82%8B-%E8%81%B7%E5%A0%B4%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%9B%E3%81%A8%E6%88%A6%E3%82%8F%E3%81%AA%E3%81%84%E6%8A%80%E8%A1%93-%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BBI%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%B3-ebook/dp/B07D3NM3B5/ref=tmm_kin_swatch_0

そのサットン先生が、Guy Kawasaki のポッドキャストに出演。近著『The Friction Project』をもとに、組織における「良い摩擦」と「悪い摩擦」について語っていました。

結論はシンプルです。

リーダーの仕事は、すべての摩擦をなくすことではありません。
正しいことを簡単にし、間違ったことを難しくすることです。

https://www.amazon.co.jp/FRICTION%EF%BC%88%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%EF%BC%89-%E8%81%B7%E5%A0%B4%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%82%92%E8%A7%A3%E6%B1%BA%E3%81%99%E3%82%8B%E6%91%A9%E6%93%A6%E3%81%AE%E5%8A%9B-%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BBI%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%B3-ebook/dp/B0FDFKCP8R/ref=tmm_kin_swatch_0?_encoding=UTF8&dib_tag=se&dib=eyJ2IjoiMSJ9.gS699uBY0sUKGOdPK_ZcOlEV6Kz6UKtHNuZl79NFi_9Z2wgftM-RAL5L8CKe7l6GnA2h0YR5bvV33F2WeUqSgBGqBgtUjxMAAnf3l6A-I5YSCzLJ7r6we1W3jdJ2ENZ7De6Ji6_uNgtnFVtKB1GYidxFquRki1a1CZRrDmMWNlEFgf37D7AEz4ZPyqNoxEKZEclxZrbnFCULEi1TG0WfbYJk3QDPXNu47PFEYProRe5Nlz7froKip66sKZ16-AMoGbdIOCsS1RlLJIJeovRlcHXt7uzddR2-4QTr-8Oq0h4.PDUbbx5bXcOsEjF2QvA5l7DajcEr0JOndstgUrgAkaM&qid=1782781165&sr=8-2

悪い摩擦とは何か

悪い摩擦とは、本来やるべき仕事を邪魔する面倒くささです。

たとえば、医師が患者を見るよりも電子カルテの入力に追われる。
社員が顧客のために働くより、社内手続きや承認に時間を取られる。
リーダーの長いメールや不要な会議が、現場の集中力を奪う。

これは人を鍛えているのではありません。

ただ消耗させているだけです。

Sutton が紹介していた医療機関では、“Getting Rid of Stupid Stuff” という取り組みが行われました。現場から不要な作業を集め、実際に削減していった。たった一つのクリックを減らすだけで、病院全体では月に約1,700時間を節約できたそう。

小さな無駄は、小さくありません。

一人にとって数秒でも、組織全体で毎日繰り返されれば、巨大な損失になります。

しかし、摩擦はすべて悪ではない

ここが重要です。

摩擦には、残すべきものもあります。

安全確認。品質管理。深い議論。創造的な試行錯誤。
人間関係をつくる時間。

これらは面倒です。
時間もかかります。
効率的ではありません。

しかし、なくしてはいけない摩擦です。

Suttonは、創造性についてこう語ります。

“The hard way is the right way.”
難しい道こそ、正しい道である。

すべてを速くすれば、組織は良くなるわけではありません。
速くしてよいものと、速くしてはいけないものがある。
そこを見分けるのが、リーダーの仕事なんですね。

Amazon、Walmart、NVIDIAの違い

対談で面白かったのは、Amazon、Walmart、NVIDIA の比較です。

Amazonは、顧客中心と倹約の規律が強い。
Walmartは、巨大企業でありながら組織階層をシンプルに保っている。
NVIDIAは、CEO の Jensen Huang のもとで、信頼と文化によって動いている。

Suttonは、NVIDIA について印象的な話を紹介していました。

社員にリモートワークについて聞くと、返ってきた答えはこうだったそうです。

“Oh, Jensen trusts us.” 
Jensenは私たちを信頼している。

Sutton はそれを受けて、こう言います。
“What a concept. Trusting people.” 
なんという発想だ。人を信頼するとは。

これは皮肉でもあり、核心でもあります。

人を細かく監視すれば、管理の摩擦が増える。
信頼できる文化があれば、余計な管理を減らせる。

Amazon、Walmart、NVIDIAは、それぞれ違う方法で摩擦を減らしています。

Amazonは、何を大事にするかを明確にする。
Walmartは、組織構造をシンプルにする。
NVIDIAは、信頼と文化で管理コストを下げる。

優れた組織には、必ず「摩擦の設計思想」があります。

リーダー自身が摩擦になる

この対談で一番耳が痛いのは、リーダー自身が摩擦の原因になりうるという点です。

長いメール。不要な会議。曖昧な指示。関係のないSlack。思いつきの追加依頼。わかりにくい社内用語。

リーダー本人は軽く言ったつもりでも、周囲はそれに動かされます。

権限を持つ人の一言は、他人の仕事になります。

だからリーダーは、自分に問わなければなりません。

自分は、仕事を前に進めているのか。
それとも、自分が摩擦になっているのか。

見るべき問いは四つ

Sutton の議論から学べる問いは、四つです。

1)この摩擦は、何を守っているのか。
安全、品質、信頼、創造性を守っているなら、簡単に削ってはいけません。

2)この摩擦は、誰を消耗させているのか。
現場や顧客だけが負担しているなら、それは悪い摩擦です。

3)この摩擦は、上の人に見えているのか。
リーダーは、自分が経験していない不便を軽く見がちです。

4)この摩擦は、足し算から生まれていないか。
新しい会議、新しいルール、新しいツール、新しい承認。
組織は、放っておくと足し算で重くなります。
本当に必要なのは、引き算です。

摩擦を見れば、組織の本音がわかる

組織が何を大切にしているかは、理念ではなく、摩擦に表れます。

顧客を大事にすると言いながら、解約を難しくしている会社は、顧客を大事にしているとはいえません。

社員を信頼すると言いながら、細かく監視している会社は、社員を信頼していないですよね。

品質を重視すると言いながら、必要な検証を急がせる会社は、品質を重視していません。

リーダーの仕事は、すべてをスムーズにすることではありません。

悪い摩擦を減らす。良い摩擦を守る。正しいことを簡単にする。
間違ったことを難しくする。

それが、組織をよくするということなのだと思います。

「なぜ、これは面倒なのか」

そう感じたとき、ただ不満で終わらせるのではなく、こう問いたい。

この摩擦は、何か大切なものを守っているのか。
それとも、ただ人を疲れさせているだけなのか。

その問いから、組織を見る目は少し変わるはずです。■

■ 参考資料:

https://guykawasaki.com/bob-sutton-mastering-organizational-friction-for-better-leadership/

https://podcasts.apple.com/jp/podcast/guy-kawasakis-remarkable-people/id1483081827


初出:note、2026年7月2日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年10月15日)。原文:https://note.com/proper_clam757/n/ncafda9c14a97

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