2026年8月30日、香港・九龍の独立書店 Have a Nice Stay に長い列ができました。その日が、最後の営業日だったからです。
店は2022年、元記者たちによって始められました。
香港の歴史や時事問題を扱う本を置き、著者イベントやワークショップも開いていました。
7月には国家安全警察の捜索を受けています。
ただし、閉店理由はそれだけではありません。店側は、赤字、家賃の不安、スタッフや家族への負担、そして社会環境を挙げていました。
私はこのニュースを見て、2015年に保存した一本の記事を思い出しました。
タイトルは、“Why Hong Kong is clamping down on creative writing”。(なぜ香港は創作活動を規制しているのか)
当時から香港では、書くこと、出版すること、本を売ることをめぐる空気が変わり始めていました。実は同じ頃、私も香港に駐在していたことがあります。あの頃の雰囲気をなんとなく肌で感じるものもありました。
11年後、その続きを見るように、一軒の小さな書店が閉じました。
もちろん、本はオンラインでも買えます。それでも独立書店には、ネット通販にはないものがあります。誰かが「この本を置こう」と決めてつくった棚です。
本屋に行けば自分では探していなかった本に出会うことがあります。Have a Nice Stayも、そういう場所の一つだったはずです。
最後の日にできた列は、単に本を買う人たちの列ではなかったのだと思います。その場所がなくなる前に、もう一度そこに行きたい。そう考えた人たちの列でもあったはずです。
一軒の本屋が閉じても、香港から本が消えるわけではありません。でも、街の中で新しい考えに出会える場所は、一つ減ります。
2015年に保存した記事を、私は当時ただのニュースとして読んでいました。11年たった今、振り返ると、あれは途中経過だったのだと分かります。
ニュースはすぐ古くなります。でも、同じ場所を長く見ていると、ばらばらだった出来事が一本の線になることがあります。8月30日、Have a Nice Stayは営業を終えました。
本屋が一つ失われることの意味を考えさせられます。失われたものは、本の冊数だけで数えることはできないからです。 ◾️
参考情報
Reuters, “Crowds flock to independent Hong Kong bookstore before shutters close,” August 30, 2026.
South China Morning Post, “Story ends as another Hong Kong indie bookshop closes amid ‘losses, red lines’,” July 14, 2026.
初出:note、2026年10月1日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年10月15日)。原文:https://note.com/proper_clam757/n/n0b80a6657fe3
カバー画像:香港・九龍の夜の街並み(CC0, Wikimedia Commons/出典)