今年のブッカー賞の発表は11月10日なので、ちょうどひと月あまり。
候補作はロングリストからショートリスト(選抜された最終選考に進むための「本命候補」のリスト)にもう絞り込まれているので、そろそろどんな作品がリストアップされているかを把握せねば。
それにしても、ブッカー賞の選考委員の仕事は大変そう。
世界でもっとも知的で刺激的な「ブッククラブ」に参加するようなもの。世界中の出版関係社のみならず、メディアからの注目度がとんでもない。
選考委員たちは候補作150冊強の作品の数々を期限までに読み、その中のたった一冊に、現代の英文学最高の賞を付与する。
ブッカー賞受賞の影響力は大きく、ノーベル文学賞をも凌ぐともいわれます。
この途方もない重責と気が遠くなる読書量に、選考委員はどのように向き合うのだろう。
かねてから知りたいと思っていたのですが、ブッカー賞のホームページにピンポイントで答えがありました。
ずばり
、「選考委員はどのように読み、そして、選ぶのか」。
今年英国サフォーク州で行われた「ラティチュード・フェスティバル」で、ブッカー賞財団の最高経営責任者(CEO)ギャビー・ウッドと対談した選考委員の一人、作家クリス・パワーが、その読書方法をインタビューに答える形で語ってくれていました。
「読む」という行為の再定義
まず、異なる背景を持つ5人の選考委員たちが、7か月の間に150冊を超える小説を読むことが課せられ、定期的に開かれる会合で、個々の作品について、深く、そして長時間にわたって議論を重ねていきます。
(今年は人気ドラマ、『Sex and The City』の女優サラ・ジェシカ・パーカーさんも選考委員に選出され話題になりました👇)
[画像省略:出典 https://www.theguardian.com/books/2025/jul/29/sarah-jessica-parker-booker-longlist-conflict-interest]
それは、フィクション——そしてフィクションについて語ること——への並外れた献身を要する役割であり、時に人間離れした集中力を求められることでもあるとされます。
以下は、そのイベントで今年の選考委員の一人、クリスが語ったアドバイスです。
8つのポイントが挙げられていました。
これらのアドバイスは、私たちすべての読者がより多くの本を読み、より豊かな読書についての会話を楽しむためのヒントにもなると思います。タメになります。
引用元:「ブッカー賞 選考委員のように読む方法」
How to read like a Booker Prize judge – according to Chris Power
1. たとえ5分でも、読まないよりはまし
本を読みたいとは思うけれど、もう何年も読んでいない、読む時間がないんだ、という人はいつもいます。
その度に私はこう思います。
おそらく、あなたの日々の中にも読書のための時間はどこかにある、と。
ただその時間が今は、別の何かにその時間が使われているだけなんです。
大切なのは、時間を“見つける”こと、そして何を優先するかを決めること。
たとえ5分しか取れなくても、それは“何もしない”よりずっといい。
“丸一日”や“丸一週間”を読書のために確保しようとしても、そんな時間は永遠にやってきません。
だからこそ、5分でも読むほうがずっと良い。
2. どこででも、いつでも読もう
同じく今年の選考委員の作家、カイリー・リードは、審査中の多くの読書をバスルームで行っていたそう。
彼女にはまだとても幼い子どもがいて、この期間中はツアーに出たり、国をまたいで引っ越したりと、とても忙しい生活を送っていました。
しばらくのあいだ仮住まいのような状態だったので、ホテルに滞在している時は、娘さんを寝かしつけたあと、バスルームにこもり、空の浴槽に座って本を読んでいたそうです。
3. すべてを読むことはできないと受け入れる
世界にはあまりにも多くの本があります。
どうすればすべてにたどり着けるでしょうか?
どんな読者も、「まだ読んでいない本」「いつか読むつもりの本」の多さに悩まされるものです。
私も例外ではありません。今年はたくさんの本を読みましたが、それでもすべてに手が届いたわけではない。
2024年後半から2025年にかけて出版された本なら、だいたいカバーできていますが、それ以外はとても無理ですね。
4. メモを取る
私はたくさんメモを取ります。
読んでいるときは、常に余白に書き込みをしています。
選考委員として読む場合、メモを怠ってしまうと——たまにそうしてしまったこともありますが——
その本の内容を思い出すのに非常に時間がかかってしまいます。
なぜなら、その間に別の26冊を読んでいるかもしれないからです。
ですから、メモを残しておくこと、そして審査会の前にそれを見返すことは、非常に貴重でした。
[画像省略:Booker Prize 2025 judges Chris Power and Sarah Jessica Parker, with Booker Prizes Chief Executive Gaby Wood, photographed at Fortnum & Mason in London © Neo Gilder for Booker Prize Foundation]
ブッカー賞2025選考委員のクリス・パワーとサラ・ジェシカ・パーカー、そしてブッカー賞財団CEOのゲイビー・ウッド。ロンドンのフォートナム・アンド・メイソンにて撮影 © Neo Gilder / Booker Prize Foundation
5. 信号機のように、自分の考えと感情を仕分ける
毎月の審査会の数日前に、その月に読む本のリストがスプレッドシートで送られてきます。
私たちはそれぞれリストの本を、緑(良い)、黄色(どちらとも言えない)、赤(否定的)の3つに分類して記録します。
そして、会議の前日に全員の意見が集約されたスプレッドシートが送られてきて、他の選考委員がどう感じているのかを見ることができるんです。
これはとても楽しく、参考にもなります。
ですが、同時にこのときこそ、メモの重要性が際立ちます。
私は記憶力が良いほうではないので、その月に読んだ30冊の内容を全部覚えておくことなんて、到底できませんから。
6. 未知を楽しむ
未知の本に出会い、何が待っているか分からないというのは、面白い体験です。
もし本がよく書かれているなら、それがどんな形式であれ、読者を惹きつけ、作品の意図を納得させてくれるはずです。
それが実験的であっても、伝統的であっても、SFや犯罪小説、あるいは純文学であっても構いません。
私が読みたいのは“良い文章”です。
同時に、それが主観的なものであることも理解しています。
だからこそ、5人の選考委員からなるパネルという形式が、とても価値あるものなんです。
7. 会話を楽しむ
私たち選考委員は、1か月に25〜30冊を読みます。
そして、月末にはそれらの本について話し合うための会議が開かれます。
この時間は本当に刺激的です。
本を読むとき、たとえ好きであっても嫌いであっても、その体験を誰かと共有したくてたまらなくなるでしょう?
私たちの会議は、まさにその“喜び”に満ちています。
全員がそれぞれの読書体験を持ち寄り、長時間にわたって語り合うのです。
8. 考えが変わることを恐れない
私たちはそれぞれ違う人間であり、好みも異なります。
ある人には美点に見えるものが、別の人には欠点に見える。
しかし、この選考プロセスを始めて最も安堵したのは、どの選考委員の意見も「なぜそう感じるのか」がちゃんと分かるという点でした。
どの選考委員も、自分の立場を明確に言語化できる。
そのおかげで、会議の後には、ものの見方が変わっていることもあるんです。
私が選考委員になる前に助言をくれた人の中には、「人は決して考えを変えないものだ」と忠告する人もいました。
それはある種のグループでは当てはまるかもしれませんが、少なくともこの選考委員チームでは違いました。
私たちは、考えを変えられる「空間」を作り出すことができた。
読者として、これは本当に素晴らしいことだと思います。
まとめ
ブッカー賞の選考委員の仕事は、単に「本を選ぶ」ことではないんですね。
時間を見つけ、言葉を残し、他者と語り、そして心を開くという、
これはまさに「読者であること」の本質的な営みでもあると思います。
以上、海外文学、とりわけブッカー賞作品を愛する、すべての読書人の参考になれば幸いです!
Happy Reading!■
参考動画:
リンク:
https://www.instagram.com/reel/DMfel6ztzCR/?utm_source=ig_web_copy_link
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初出:note、2025年10月5日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年10月15日)。原文に掲載されている第三者の画像は、権利上の理由により本アーカイブでは省略しています。原文:https://note.com/proper_clam757/n/n1f2a1e17e74d
カバー画像:カミーユ・コロー《読書する少女》(1868年頃)(Public domain, Wikimedia Commons/出典)