また一つ、文章家ならチェックしておきたいポッドキャストを聞きました。
今日も David Perell の How I Writeから。
今回のゲストは、トルコ出身の作家、エリフ・シャファク。
トルコで最も読まれている女性作家ともされます。
これまでに21冊の本を世に送り出してきた彼女の文章は、「鳥たちがいつもより大きな声で歌い出すような」美しさをたたえていると、インタビュアーのデイヴィッド・ペレルは語ります。
このインタビューで印象的だったのは、
「理性だけでは世界の本質には届かない」
とする彼女の考えです。
文学は、合理性からこぼれ落ちてしまう”不合理な真実”をすくい取る営みであると。
その象徴的な例として、彼女は「水」の話をします。
私たちが飲む水も、川を流れる水も、何千年も地球を循環してきた同じ一滴。
泣き流した涙が、やがて別の世代のコップの水になる――そんな想像をした瞬間、世界は静かに姿を変える。
理屈では測れない連続性と、深い時間の流れが立ち上がってくる。
彼女はまた、ギリシャ哲学の「二つの時間」の概念を引き合いに出します。
・クロノス(Chronos)……時計で測れる時間
・カイロス(Kairos)……物語や自然が流れる深い時間
ストーリーテラーが扱うのは、後者の「カイロス」。
岩の旅路や、水の循環、人間の感情の起伏――それらは年表では捉えられません。
むしろ、ぐるりと巡る円環のような時間が必要です。
たとえば、岩が何万年もかけて姿を変えていく道のりや、水が海と空と川を巡り続ける循環、そして人の感情が揺れ動く心の流れ――こうしたものは、年表のように一直線の時間では説明できません。
むしろ、「同じような出来事が形を変えて巡り続ける円」として捉えたほうが、しっくりくる。
だからこそ、物語を書くということは、
時計では測れない“深い時間”の中で生きること
でもあるのだ、と彼女は語っています。
合理性が求められる現代社会において、私たちはつい「測れるもの」だけを信じがちです。
しかしシャファクの言葉は、こう問いかけてくるように感じます。
測れないからといって、それは存在しないことになるのだろうか――?
文学が果たす役割は、きっとそこにあります。
理性を超えて、世界の奥に流れる深いリズムに触れること。▪️
P. S. 話し方は静かで、知的を絵に描いたような魅力を感じさせるシャファク。
実は激しいヘビーメタル好きで、実際に執筆時は聴きながら執筆するのだそう。この対比もなんだか彼女らしい魅力なのかもしれません。
参考:David Perell による Elif Shafak へのインタビュー投稿より
https://x.com/david_perell/status/2005005863673889010?s=46