カバー画像:『スミスフィールド教令集』(1300〜1340年頃、大英図書館 Royal MS 10 E IV, f. 49v)の余白に描かれた、ガチョウに説教するキツネ(パブリックドメイン/Wikimedia Commons)
ロンドンの公園で、二人の男が馬上槍試合をしていました。
ただし、馬には乗っていません。
代わりに使ったのは、街中で借りられるLimeの自転車。槍も木製ではなく、プラスチックのパイプです。
2026年10月、ロンドン東部のロンドン・フィールズで、そんな奇妙な催しが開かれました。
ちょうど世界的なアートフェア「Frieze」が開催されていた時期です。高価な作品が並ぶ美術イベントとは対照的に、この騎士試合は誰でも気軽に見物できました。
おもしろいですね。
中世の騎士が現代のシェアサイクルに乗っている。その光景だけでも十分に面白いのですが、私は別の話を思い出しました。
2015年に読んだ、大英図書館の学芸員ジュリアン・ハリソン(Julian Harrison)のインタビューです。かなり前の記事です。
ハリソンは、中世の手書きの本を研究・保存する仕事をしています。「写本」に携わる人です。彼は写本に描かれた挿絵をブログで紹介し、専門家以外の人々からも大きな反響を得ていました。
どんな反響だったか。
人気があったのは、意外な絵なんですね。
カタツムリと戦う騎士。猫の絵。
そして、映画『スター・ウォーズ』のヨーダにそっくりな人物。
原文に掲載の画像:https://www.theguardian.com/careers/careers-blog/2015/apr/16/was-yoda-medieval-monk-museum-curator?utm_source=chatgpt.com
このヨーダに似た人物は、14世紀の写本『スミスフィールド教令集』に描かれています。もちろん、本物のヨーダではありません。旧約聖書に登場するサムソンの物語に関連した挿絵だそうです。それでも、700年ほど前の本にこんな絵があるとは驚きます。
私たちは中世というと、城や騎士、戦争、宗教などを思い浮かべがちです。しかし、当時の人々も奇妙なものを描き、ユーモアを楽しんでいたことがわかります。
ロンドンの自転車騎士たちも、歴史を正確に再現しようとしていたわけではありません。中世の馬上槍試合を借りて、現代の道具で遊んでいた、ということだと思います。
古い文化を楽しむのに、いつも厳密な再現が必要なわけではないということですよね。中世の写本を見て笑うことも、自転車で騎士になりきることも、過去に興味を持つ立派なきっかけになるんだと思います。◾️
参考記事
* The Guardian(2026年10月24日)「Lime bike jousts? Why youth culture is embracing the medieval era」
* The Guardian(2015年4月16日)「Was Yoda a medieval monk? It takes a museum curator to tell you」
* GBH(2015年4月18日)「Yoda? Is It Thou? Figure In 14th-Century Manuscript Looks Familiar」
初出:note、2026年10月28日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年11月4日)。原文:https://note.com/proper_clam757/n/n33d73f61c66b