カバー画像:エクセキアス《自害の準備をするアイアス》黒像式アンフォラ(前530年頃、ブローニュ=シュル=メール城博物館)、写真:Ptyx(CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons)

本の神様に運を試される恒例行事、神保町ブックフェスティバル。

原文に掲載の画像:2026. 10. 25.

神保町は、文学、哲学、歴史、美術、宗教――さまざまな分野の古書店が軒を連ねる、世界有数の本の街です。かつては、海外誌Time Out にも世界で訪れるべき場所の一つ、として堂々と紹介されていました。

通りには古本の棚が幾重にも並び、その前で、見知らぬ人々が一冊一冊に顔を近づけています。紙の匂いと人の気配が混じり合い、押し合いへし合い。フェスティバル期間中は人が多すぎでゆっくり本を選ぶ雰囲気でもないのも事実。街全体が大きな書庫になったような日本が世界に誇る街。

私が探しているのは二冊。
『馬券偽造師』と『エクソシストは語る』です。

後者は、もう何年も探しています。イタリアの悪魔祓い師、ガブリエル・アモースが、自らの経験を語った本です。この人は著名なエクソシストで、この分野の世界的第一人者。どちらも希少な本です。前者は楠木建先生と山口周さんが最近の共著本で褒めててどうしても読みたくなりました。いずれもネット書店でももう手に入らないレベル。中古があっても10万円近くしたりする。

膨大な本の海から、たった二冊を探す、というのは至難の業です。まさに砂漠の中から、二粒の砂を拾い上げるようなもの。それにフェスティバルでは来訪者の数が多すぎて辟易するときも。砂浜にたどり着かない混みよう。

それでも懲りずにフェスティバル期間中に古書店を巡るのは、自分の運を試してみたいから。何年も探していた本が、思いがけない店の片隅で、何食わぬ顔をしてこちらを待っている(のでは?)、と信じて。そんな偶然に出会うと、本の神様がほんの少しだけ、こちらに顔を向けてくれたように感じるんです。もちろん、お祭り期間以外も神保町に出かけていくたびに全戦全敗。全然見つかりません。読書道の精進が足りないのかも。Lack of devotion.  それでも、諦めたくない。どうか今日こそ、本の神様、私に微笑んでください。

そういえば最近、AI開発企業のAnthropicが大量の古書を購入し、それらを裁断してデジタル化し、AIの学習に利用していたというニュースを読みました。AIに本を読ませるために、人間が本を壊している。ディストピア小説みたいです。知識を残すために、実体としての本を失わせる。何とも奇妙な時代です。みなさんも古本が世界から裁断されて消える前に買いに行きましょう。

もっとも私自身、AIは毎日のように使っていますし、デジタル化によって本の知識が広く利用できるようになることにも価値を感じています。

ただ、古書店で実際の本を探す楽しみは、情報を手に入れることだけではありません。今の時代、検索すれば、欲しい本がどこにあり、いくらで売られているかはすぐにわかります。でも古書店では、探していなかった本がふいに目に入る。誰かが何十年も前に読んだ本が、長い時間といくつもの手を渡り、巡り巡って自分のもとへやってくる。それがいい。その偶然がたまらなく楽しいんですよね。

さて、今回の探索の結果です。
目当ての二冊は、、、、。

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はい、もちろん、、どちらも見つかりませんでした。

後半からは雨も降り始めました。
神保町ブックフェスティバルって毎年雨が降りますよね。なんなんだろう。

細い雨が本の街の上に静かに落ち、通りのざわめきから少しずつ色を奪っていきます。濡れた舗道に古本の看板がぼんやり映り、人々は傘の下で、諦めきれないのか、なおも棚をのぞき込んでいました。

私も探し続けたい気持ちは残っていましたが、2冊だけ買って帰ることにしました。もちろん、お目当て以外の偶然見つけた二冊。

一つはフランス文学を代表する作家 J. M. G. ル・クレジオとの対談集、『ル・クレジオは語る』。

若き日のル・クレジオが、自身の文学観や執筆の動機、言葉や世界に対する思考を、名インタビュアーとして知られたピエル・ロストの問いかけに答える形で語った対談をまとめた一冊。

もう一冊は、ソポクレースの『アイアース』。
しかも古本ではなく新品で。笑。

古代ギリシャの英雄アイアースが、名誉を傷つけられ、神々に翻弄されながら、悲劇的な最期を迎える物語です。オデュッセイアつながりで、前から読んでみたかった一冊。帰り際、ふとこの本の帯に目が留まりました。
そこには、こんな言葉が書かれていました。

「間違いなくこの身は神々には疎まれ、ヘラス全軍の憎まれ者となり果てた」

本の神様に微笑んでほしいと願って出かけたのに、買って帰ることになったのは、神々に疎まれた男の物語でした。

もともと探していた二冊は、まだ見つかっていません。雨の向こうに、まだ眠っているんだと思います。

そう信じてまた神保町に通うのです。◾️

参考情報

第34回 本の街 神保町ブックフェスティバル | 神田すずらん通り商店街


初出:note、2026年10月26日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年11月4日)。原文:https://note.com/proper_clam757/n/nf86ad311f4a9

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