英国北西部のプレストン刑務所を、世界的作家リー・チャイルドが訪れました。大ベストセラー『ジャック・リーチャー』シリーズで知られる作家です。
今回、チャイルドが参加しているのは、英国の刑務所へ約48万冊の本を届ける計画です。読書支援団体The Reading Agencyが運営し、読書に慣れていない大人向けの短い作品群「Quick Reads」を配布します。
選ばれたのは、次の11作品。
読書の習慣をつけたいけどなかなか身につかない人もきっと参考になるラインナップです。
- リー・チャイルド『High Heat』
- レイエ・アデンレ『Cell One』
- A・A・ダンド『Darkness Rising』
- ドレダ・セイ・ミッチェル『One False Move』
- フィオナ・カミンズ『A Boy Called Saul』
- アンディ・マクナブ『Today Everything Changes』
- アレックス・ウィートル『Witness』
- 複数作家による短編集『Dead Simple』
- レムン・シセイ『My Name Is Why』
- アレックス・ジョージ『The Mind Manual』
- キャシー・レンツェンブリンク『Write It All Down』
犯罪小説を中心に、回想録、心の健康、文章の書き方まで幅広い内容です。選書には受刑者たちの意見も取り入れられました。
チャイルドは以前刑務所で、学校の読書がつまらなかったために本から遠ざかったという声を聞いたそうです。興味の持てない本を読めなかったからといって、読書そのものが嫌いとは限りません。今回の計画は、まず読みたいと思える本に出会ってもらうことを重視したといいます。
背景には深刻な読書不足の問題があります。
英国政府の統計によれば、刑務所に入る人の三分の二以上が、中等教育修了資格の水準に達しない読解力で入所しています。文字を十分に読めなければ、出所後の就職活動や日常生活にも支障が出ます。
政府は読書が社会復帰や再犯防止につながることを期待しています。ただし、今回の計画が実際に再犯率を下げるかどうかは、まだわかりません。
でも私が興味を持ったのは、受刑者自身が本選びに参加したことです。
刑務所では、生活の多くが規則によって決められています。起きる時間も、食事も、外出も自由にはなりません。そんな場所で、何を読みたいかと尋ねられることには、特別な意味があるように思うんです。
本を読むとき、私たちは登場人物に共感したり、反発したり、作者の考えに異議を唱えたりします。どう受け止めるかは、自分で決められます。
もちろん、一冊の本で人生が変わるとは限りません。読書がすべての人の更生につながるわけでもないでしょう。それでも、誰かが選んだ教材を読まされることと、自分が読みたい本を手に取ることは違います。
刑務所へ届けられる48万冊の本。
その価値は、読解力を高めることだけでなく、読む楽しさと、自分で選ぶ機会を取り戻すことにもあるのだと思います。そして好きな本を好きなだけ読める私たちの普通の生活にも感謝したいなと思います。◾️
写真:Mark Coggins, Wikimedia Commons(CC BY 2.0)。2010年撮影。今回の刑務所訪問とは別の機会の写真です。
参考情報
- The Guardian(2026年10月16日):リー・チャイルドと刑務所への書籍配布計画
- The Bookseller(2026年10月16日):Quick Readsの配布計画と選定作品
- 英国司法省(2026年1月27日):刑務所読書大使の任命と読書支援
初出:note(2026年10月27日)。初出記事の写真は再利用許諾を確認できないため掲載していません。本文中の写真への言及は初出原文を保持しています。