まず、この二枚の投稿写真を見てください。

[画像省略:出典 https://www.instagram.com/p/DcJhwJ_jqMJ/?igsi=cXEydTg3Nm1wMHU0]

[画像省略:出典 https://www.instagram.com/p/DcJhwJ_jqMJ/?igsi=cXEydTg3Nm1wMHU0]

Instagramを見ていて、ある画像で指が止まりました。

“Pixar’s 22 Rules of Writing”
ピクサーの22の創作術

物語を書く人なら、一度くらい目にしたことがあるかもしれません。有名なピクサーの創作ルールです。

ただ、私が気になったのは「22のルール」そのものではありませんでした。

画像のところどころに、黄色い線で丸が描かれていたことです。

投稿したのは、英国の著名な文学エージェント、Jonny Geller(ジョニー・ゲラー)。長年、作家の原稿を読み、それを出版社へ届ける仕事をしてきた人です。私が好きなイギリスの文豪、故ジョン・ル・カレのエージェントでもあった人物。

ゲラーは投稿の中で、ピクサーの22項目のうち、他人の作品を読む文学エージェントとして役に立つと思ったものに丸をつけたと説明しています。

だとすれば、面白い問いが生まれます。

物語を「書く人」ではなく、「選び、世に出す人」は、いったい作品の何を見ているのでしょうか?

黄色いハイライトが教えてくれること

最初に一つ、正確にしておきたいことがあります。

インターネットで「Pixar’s 22 Rules」として広く知られているこのリストは、Pixarが公式に制定した22か条ではありません。Pixarでストーリー・アーティストを務めたEmma Coatsが、仕事を通じて学んだ物語のベーシックをSNSで共有したものが広まったものです。

そしてゲラーが選んだ項目を眺めてみると、派手なプロットの作り方はほとんど出てきません。

たとえば、

「人物に意見を持たせる」
「その人物が得意なこと、居心地のよいことの正反対をぶつける」
「偶然によって人物を窮地に追い込むのはよい。しかし偶然によって救うのは反則」
「物語の本質は何か。もっとも簡潔に言えば、どんな話なのか」

そして、とりわけ目を引くのがこの問いです。

“Why must you tell THIS story?”
なぜ、あなたはこの物語を語らなければならないのか

私は、これらの黄色いハイライトには一つの共通点があるように思います。

設定ではなく、人間を見ている。

もっと言えば、物語の中の人間と、それを書いている人間の両方を見ているのだと思います。

「優しい主人公」では、まだ人物になっていない

「人物に意見を持たせる」というルールは、一見すると単純です。

しかし、ここでいう「意見」は、会話の中でよくしゃべるという意味ではないと思います。

「世界はこういうところだ」
「人間は信用できない」
「成功しなければ価値がない」
「お金さえあれば安全だ」
「家族だけは裏切ってはいけない」

そうした、その人なりの世界の見方を持っているということですね。

物語研究で知られる専門家 Will Storr(ウィル・ストー)は、これを theory of control (コントロールの理論)と呼びます。

人は誰でも、「こうすれば世界とうまくやっていける」という自分なりの理論を持って生きている。それが、その人物の選択や行動を生みます。

だから、「優しい」「頭がいい」「少し頑固」といった形容詞をいくつ並べても、まだ人物は動きません。

その人が、

何を信じているのか。
何を守ろうとしているのか。
何だけは譲れないのか。

そこまでわかったとき、ようやく人物が自分で歩き始めます。

そして物語は、その信念が現実と衝突するところから始まります。

得意なことではなく、「通用しない場所」へ連れていく

だから、もう一つのハイライトされたルールが効いてきます。

人物が得意としていることの正反対をぶつける

これは単に「強い敵を出せ」という話ではないですよね。

人を説得することで生きてきた人なら、言葉が通じない相手の前へ。知性で問題を解決してきた人なら、正解のない問題の前へ。人から認められることで自分の価値を確かめてきた人なら、誰にも評価されない場所へ。逃げることで自分を守ってきた人なら、逃げれば誰かが傷つく状況へ。

そうすると、その人物がそれまで隠していたものが出てくる。

人間は、平穏なときより、これまでのやり方が通用しなくなったときに正体を見せるからです。

だから優れた物語では、出来事が人物に「起こる」だけでは足りません。出来事によって人物が選ばされ、その選択が次の出来事を生み、さらに次の選択を迫る。

ストーが強調するように、物語にはこの因果の連鎖があります。

だからこそ、

偶然で窮地に追い込むのはよいが、偶然で救ってはいけない

というルールも重要なのだと思います。

主人公を最後に救うのは作者ではない。
主人公自身の選択でなければならない。

では、なぜ「あなた」が書くのか

ここまでは、物語の中の人物についての話です。

しかしゲラーが選んだルールの中には、突然、矢印が作者の方へ向くものがあります。

“Why must you tell THIS story?”
なぜ、この物語をあなたが語らなければならないのか。

私はこれが、六つの黄色い線の中で最も重要な問いではないかと思います。

面白い設定を思いつくことはできます。
プロットの技術も学べます。
三幕構成も、伏線も、どんでん返しも研究できます。

しかし、それだけでは、
「なぜ、この人の小説を読むのか」
という問いに答えられない。

別の文学エージェント、Carly Wattersは、17年間で約20万件のbook pitchを読んできた経験から、作家に必要なものとしてVoice(声)を挙げています。

彼女の表現では、

“Voice is your fingerprint.”
Voiceは指紋だ

といっています。

そして、作家には「世界について何か言うこと」がなければならないとも書いています。

ここでいうVoiceは、単なる文体ではないのだと思います。短い文章を書くとか、比喩を多くするとか、語尾に特徴をつけるとか、そういう表面の話ではない。

何を見てしまう人なのか。
何に引っかかる人なのか。
何をどうしても黙って通り過ぎられない人なのか。

そこから文章の本当の声は生まれるのだと思います。

技術を学ぶほど、最後に残るもの

もちろん、だからといって「技術などいらない」という話ではありません。

むしろ逆です。

人物をどう作るか。
どこに対立を置くか。
どの情報をいつ出すか。
場面をどうつなぐか。
物語をどこで終わらせるか。

これらには技術があります。

私自身、創作について学べば学ぶほど、「才能」と一言で片づけていたもののかなりの部分が、実は分解して学べる技術なのだと感じます。

けれど、技術を一つずつ身につけていくと、最後に技術では解決できない問いが残ります。

なぜ、あなたがこの話を書くのか。

これは、AIが文章を書くようになった時代には、以前より重い問いになるかもしれません。

AIは構成を整えることもできる。
文章を滑らかにすることもできる。
既存の物語のパターンを学び、それらしい作品を作ることも、ますます容易になっていくでしょう。

だからこそ最後に残るのは、
「うまく書けているか」
だけではない。

この人は、何を見たのか。
なぜ、それを放っておけなかったのか。
なぜ、この人が、この物語を書かなければならなかったのか。

という問いです。

ピクサーの22の創作ルールを見ていたはずなのに、文学エージェントが引いた黄色い線を追っていくと、最後にたどり着くのは技法ではありませんでした。

作家自身です。

私は長いあいだ、「どうすれば、もっとよく書けるのか」を考えてきました。その問いは、これからも消えないと思います。

でも、ときどき、その一つ手前に戻る必要があるのだと感じました。

なぜ、私はこれを書かなければならないのか。◾️

参考情報

* Jonny Geller, Instagram post on “Pixar’s 22 Rules of Writing,” August 2026.
* Emma Coats, “Story Basics” / the list widely known as “Pixar’s 22 Rules of Storytelling.”
* Will Storr, The Science of Storytelling and conversation with David Perell on How I Write.
* Carly Watters, “I’ve Rejected 200,000 Books In My 17 Years In Publishing,” The Weekend Rant, June 27, 2026.


初出:note、2026年9月7日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年10月15日)。原文に掲載されている第三者の画像は、権利上の理由により本アーカイブでは省略しています。原文:https://note.com/proper_clam757/n/n463a01bd1a64

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