最近はたくさんの 海外の論文や Substack 記事を読んで、AI時代における著者性 について考えています。

自らの著者性とは?

たとえば、自分の文章を誰かに読まれて、「これはAIが書いたのではないか」と疑われたとします。

その際、自分が書いたと、どう証明すればいいのでしょうか。

決定打の不在

実は、いまのところ決定的な方法はありません。

AI が書いた文章らしいかどうかを調べるサービスはあります。しかし、人間の文章をAI製だと間違えて判定することもあります。

最近は、AI が文章を作ったときに、あとから分かるような見えない印を残す技術も研究されています。英語では「ウォーターマーク」と呼ばれます。

けれど、それでも問題は解決しません。

研究者たちの苦肉の提案

たとえば、こんな場合です。
ある研究者が、自分で研究テーマを決めた。資料を集めた。理論を考えた。結論も自分で出した。

ただし最後に、英語をきれいにするためにAIを使った。

この文章からAIの「見えない印」が見つかったとしても、
「だから、この研究はAIが考えた」
とは言えません。

研究の中身を考えたのは、人間だからです。

AIと文章の関係を研究しているRyan SangBaek Kimは、まさにこの問題を指摘しています。

AI が文章作りに参加したことと、AI がその内容を考えたことは同じではない。
ここが重要です。

別の研究者は、違う方法を考えています。
エディンバラ・ネイピア大学でCritical AI Literacy、つまり「AIを批判的に理解し、使い分ける力」を研究するSam Illingworthです。Illingworth は、AI を使った疑いをかけられたときのために、完成した文章だけではなく、下書きや編集の履歴を残しておくことを勧めています。

2026年8月、彼は作家や学生、研究者に向けて、完成した文章だけではなく、そこへ至る記録を残しておこうと提案しました。

Jerry Falade事件

きっかけの一つは、作家Jerry Faladeをめぐる事件です。

Faladeのデビュー小説には200万ドルを超える出版契約が報じられていました。ところがAI使用への疑念が持ち上がり、代理人側は最終的に、原稿がどのように作られてきたのか確認できないとして販売を取り下げました。Falade本人はAI使用を否定しています。

ここで問題になったのは、完成稿だけではありませんでした。

この原稿は、どうやってここまで育ったのか。

Illingworthは、そのために下書きや編集履歴、資料などを残しておくことを勧めています。

なるほど、と思います。

文章が少しずつ変わっていった記録があれば、「ある日突然、完成稿が現れた」という状態よりは、ずっと説明しやすい。

しかし、これでもまだ問題は残ります。

編集履歴を見ても、
その途中で誰が何を考えたのか
までは分からないからです。

段階を記録し、可視化する

そこで面白いのが、Petar Djukicの方法です。
Djukicは、20年以上ソフトウェアを作ってきたAIシステムのエンジニアです。現在はAIを使った複雑なシステムの設計に携わり、自身のニュースレターでもAIとの仕事の仕方を実験しています。

彼はAIに、いきなり、
「この記事を完成させて」
とは頼みません。

まずアイデアを作る。
次に下書きを作る。
別のAIに厳しく批判させる。
引用や事実を確認する。
文章を整える。

そのように仕事をいくつかの段階へ分け、途中の成果物を残します。そして各段階で、人間が確認します。

これはかなり大切な考え方です。

AIとの仕事を、一回の「生成」で終わらせない。
途中を見えるようにする。

ただ、ここでも最後に一つ残ります。
たとえばAIが、
「この段落はいりません」
と言ったとします。

人間は考えた末に、
「いや、ここは残そう」
と決めた。

なぜでしょう。

そこに自分の経験が入っていたからかもしれない。
文章全体に必要な違和感だったからかもしれない。
AIの判断の方がおかしいと思ったのかもしれません。

その「なぜ」は結局、編集履歴だけでは分かりません。

Human Trace 「判断の記録」

そして私は、ここに人間の仕事が残るのではないかと思っています。

私はこの部分を記録するために、Human Trace――「人間の判断の記録」という方法を試しています。

難しいものではありません。

作品をつくりながら、
何をきっかけに、この問いを考えたのか。
AIに何を頼んだのか。
AIの提案のうち、何を採用しなかったのか。
どの事実を自分で確認したのか。
途中で、自分の考えはどう変わったのか。
最後に、何を自分の判断で残したのか。
そうしたことを記録しておくのです。

これでも、
「人間が書いた」と完全に証明できるわけではありません。
Human Traceは証明書ではありません。
AIを使っていないことを証明するものでもありません。

むしろ、
AIを使いながら、人間がどこで考えたのかを後から説明できるようにするための記録です。

The Caipirinha Papers

私自身は、こうした制作の記録をThe Caipirinha Papers  という形でも残そうとしています。
私のペンネームを付けた記入シートを作成しました。
👇

https://note.com/proper_clam757/n/n7543a61c66cf

完成した文章だけではなく、
最初のメモ。
読んだ資料。
途中で捨てた仮説。
AIとのやり取り。
書き直した理由。
最後に自分が選んだもの。

そうした、「作品ができるまで」を残しておく。

もちろん、AIとの会話を何千ページもそのまま保存すればいい、という話ではありません。全部を公開する必要もないでしょう。

重要なのは、あとから、
「この作品はこんな思考と判断を通って生まれました」
とたどれることです。

次なる問いへ

こうして世界で起きていることを見ると、議論は少しずつ先へ進んでいるように見えます。

最初の問いは、
「AIを使ったか?」
でした。

次に、
「どうやって作ったか?」
を見るようになった。

そして今、その先に、
「その途中で、人間はどこで考えたのか?」
という問いが現れています。

まだ、答えはありません。

AI 判定も、見えない印も、編集履歴も、それだけで「この人が著者です」と証明することはできません。

だからこそ、完成品だけではなく、そこへ至る思考の過程も残す価値が出てきたのだと思います。

AIが何千字でも文章を書ける時代に、すべての文字を自分の指で打ったことだけが著者の証になるとは思えません。

むしろ問われるのは、

何を問い、
何を疑い、
何を捨て、
何を残し、
最後に何を自分の名前で引き受けたのか。

AI時代の問いは、
「あなたがこの文章を書きましたか?」
だけではない。

その先に、もう一つあります。

あなたは、この作品のどこで何を考えましたか。◾️

参考情報

Substack — “How can I detect AI on Substack?”
2026年7月以降、SubstackはPangramを使ったAI判定機能「Scan for AI text」を導入し、書き手自身が制作方法を説明する「How I make this」欄も設けています。Substack自身もこれは「推定」であると説明しています。

Anthropic — “How Claude’s text watermark works,” 14 August 2026
Claudeが文章を作る際、目には見えない統計的なパターンを残す仕組みを説明しています。Anthropic自身も、この印から分かるのは「Claudeが関わった可能性」であり、Claudeが最初から書いたのか、大幅に編集しただけなのかまでは区別できないとしています。

Ryan SangBaek Kim — “Can Claude’s Watermark Prove AI Authorship?”, 17 August 2026  
「研究の問い、理論、証拠、議論を人間が作り、最後にClaudeに翻訳だけさせた場合、誰が著者なのか」という具体例から、AIの関与と知的な著者性は同じではないと論じています。

Sam Illingworth — “You Will Be Accused of Using AI. Here Is How to Prove You Wrote It,” 7 August 2026
AI使用を疑われた際に備え、下書き、編集履歴、資料などを含む制作の「audit trail=後からたどれる記録」を残すことを提案しています。

Petar Djukic — “How to Build a Writing Pipeline,” 8 August 2026
AIに一度で完成稿を書かせず、アイデア、下書き、批評、事実確認、修正などの段階に分け、人間が途中で確認・判断できる制作方法を紹介しています。

The Guardian — “$2m crime novel deal collapses amid questions over AI use,” 31 July 2026
デビュー作家 Jerry Faladeの小説をめぐり、代理人側が原稿がどのように作られたかを確認できないとして販売を取り下げた経緯を報じています。これはSam Illingworthの記事が取り上げた実例でもあります。


初出:note、2026年8月28日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年10月15日)。原文:https://note.com/proper_clam757/n/n13a5654b2df7

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