最近、ブッカー賞作家たちの読書習慣について書きました。

今日もまた一つブッカー賞に関連してとてもためになる記事を読みました。

 

A Booker is life-changing. Three past winners reveal how

 

国際的な文学賞としてノーベル文学賞とも並び評される、ブッカー賞を受賞した作家たちが、受賞後の生活や創作について語る内容です。

昨今は日本人作家も世界でますます注目されていますし、ブッカー賞を受賞する方も必ず出てくると思います。その日が待ち遠しいですね。

そんな中、記事を読みながら、気づいたことがあります。

作家として「成功すること」と「書き続けること」は、必ずしも同じ方向を向いていないのかもしれない、ということです。

こんなことが書かれていました。

「ブッカー賞は人生を変えるが、創作を即座に自由にするわけではない」

• ブッカー賞は「成功の証明」であると同時に、「新しい制約の始まり」でもある

• 名声・期待・市場・政治性が一気に作家の身体にのしかかる

• 受賞はゴールではなく、創作環境が根本から変わる転換点

ブッカー賞を取るとどんなことが起きるのか、なかなか見ることのない世界ですよね。

記事から紐解いていきましょう。

「ブッカー賞を取った夜は、確かにスリリングでした。でも、あの数週間の熱狂のなかで、私は作家というより“競走馬”のように感じていました」

こう振り返っているのは、アルンダティ・ロイです。

1997年、彼女の小説『The God of Small Things』は、インド文学として初めてブッカー賞を受賞しました。

 

文学的達成の頂点とも言われるこの賞は、作家の人生を一変させます。

しかし、勝利のその先で、作家たちは何を感じ、どう書き続けているのでしょうか。

受賞の瞬間は、喜びよりも「混乱」に近い

2025年10月、インドネシアで開催されたウブド・ライターズ&リーダーズ・フェスティバル(Ubud Writers and Readers Festival )には、近年ブッカー賞を受賞した作家たちが集っていました。

2025年の国際ブッカー賞を受賞したのは、カンナダ語短編集『Heart Lamp』の作者バヌ・ムシュタクと、その英訳を手がけた翻訳家ディーパ・バースティです。

授賞式当日、ムシュタクは預けた荷物を失い、着る服がないという混乱のなかで式に臨むことになりました。

一方、バースティにとって強く印象に残ったのは、受賞後にかけられた次の一言でした。

あなたは、有色人種として、そしてインド人として、初めてこの賞を受けた翻訳者です。

その意味の大きさを、その場では受け止めきれなかったと彼女は語ります。

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勝利のあとに訪れる「麻痺」

2024年に『Kairos』で国際ブッカー賞を受賞したドイツの作家ジェニー・エルペンベックも、同じような感覚を語っています。

自分の本のタイトルが読み上げられた瞬間、緊張のあまり、それが自分の作品だとすぐには認識できなかった。

カメラ、フラッシュ、取材――そのすべてが通り過ぎ、ホテルに戻って初めて現実味が湧いた。

多くの作家が共通して語るのは、「机に戻ることの難しさ」です。

エルペンベックも、受賞から一年半、ほとんど執筆が進まなかったと明かしています。

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それでも、書く人は書いてしまう

それでも、書くことそのものは止まりません。

ムシュタクは「書くことは自分の命綱だ」と語ります。

長距離フライトの機内や、深夜のホテルの一室で、わずかな時間を見つけて執筆を続けてきました。

バースティにとっても、執筆は心を整えるための静かな儀式です。

多忙な日程の合間に、原稿に少しずつ手を入れていく。

その行為自体が、外の世界から距離を取る方法でもあるといいます。

注目は、作品の読み方すら変えてしまう

ロイは、受賞後に感じた違和感を、より構造的に言語化しています。

インド人作家が国際的な賞を受賞したことは、多くの人に歓迎されました。

しかしその一方で、『The God of Small Things』は「政治性を取り除かれた作品」として語られるようになった。

階級やカーストへの言及は後景に退き、「美しい文体の子どもの物語」として消費されていく――。

名声は祝福であると同時に、作品の解釈そのものを変形させる力を持ちます。

名声は制約であり、同時に自由でもある

ムシュタクは、現在の注目のなかで、以前より慎重になっていると語ります。

再び大胆な表現に踏み出すには、少し時間が必要だと感じているのです。

一方で、バースティは私生活と創作を明確に切り分けることで、その圧力を遮断しています。

机に向かえば、文学界の視線はほとんど意識に上らない。

エルペンベックは、受賞がもたらした変化を、こう整理します。

経済的な不安が軽くなったことで、初めて「本当に書きたいこと」を選べるようになった。

リスクを取る自由が生まれたということだと思います。

ブッカー賞が変えるのは、人生だけではない

ブッカー賞は、作家の肩書きを書き換えます。

同時に、書くことの孤独と自由、その両方を極端なかたちで可視化します。

華やかな受賞の裏側で、多くの作家が静かに、再び机へ戻ろうとしています。そして多くの受賞者が苦しんでいます。

これが結論でいいのかはわからないのですが、個人的には、結局のところ、本当の意味で自由に書けるのは、失うものが何もない無名な間だけ、と言えなくもない。

そんな気もしました。

あらためて今の時間を大事にしたいと思いました。▪️

参考元:
06 DEC 2025
A Booker is life-changing. Three past winners reveal how