成功した起業家がたどり着いた「富」と「自由」と「書くこと」の関係

Scott Galloway という人物は、知れば知るほど興味深い人です。

日本では『一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』の著者として知っている方もいるかもしれません。
原題は The Algebra of Wealth。
「富の方程式」です。

https://www.amazon.co.jp/ALGEBRA-WEALTH-%E4%B8%80%E7%94%9F%E3%80%8C%E3%81%8A%E9%87%91%E3%80%8D%E3%82%92%E5%90%B8%E3%81%84%E5%AF%84%E3%81%9B%E3%82%8B-%E5%AF%8C%E3%81%AE%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F-ebook/dp/B0DJLMHL2K/ref=tmm_kin_swatch_0

その Scott Galloway が、いま Substack に本格的に参入しています。

これがとても面白いと思いました。

なぜなら、これは単に「有名人が Substack を始めた」という話ではないからです。

むしろ、すでに大きなオーディエンスを持ち、すでに十分な収益を上げている人物が、なぜあえてニュースレター型のプラットフォームに力を入れるのか。

そこに、これからの知的生産、個人メディア、そして オーサープレナー(authorpreneur) としての働き方を考える上での重要なヒントがあるように思います。

なお、Substack が初めての方はこちらもご参考ください。

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まず、Scott Galloway とは何者か

彼はニューヨーク大学のビジネススクールのマーケティング教授であり、起業家であり、投資家であり、そして現在はメディア経営者でもあります。

Scott Galloway は、長くマーケティングと経営の世界で活動してきた人物です。

名門、ニューヨーク大学 Stern School of Businessで教える教授でありながら、自らも複数の企業を立ち上げてきました。

若い頃に立ち上げた戦略会社は、年商1,000万ドル規模まで成長し、その後売却されています。その経験から彼は、企業価値がどのように決まるのかを深く考えるようになります。

後に彼が立ち上げた L2 という企業は、ブランドやデジタル戦略に関する調査・分析を提供する会社でした。

彼はこの会社を作るとき、最初から企業価値を高めるための条件を意識していたと語っています。
それは、

継続収益があること。
特定の領域で強いポジションを持つこと。
模倣しにくい知的資産を持つこと。
国際展開が可能であること。

この考え方に基づいて作られたL2は、最終的に高い倍率で売却されました。

ここが重要です。

Scott Galloway は、単に「鋭いことを言う人」ではありません。
実際に事業を作り、売り、企業価値を高めることを経験してきた人です。
だから彼の発言には、学者の視点だけでなく、経営者の視点があります。

そして現在、彼は Prof G Media というメディア企業を率いています。

Prof G Media は、ニュースレター、ポッドキャスト、動画、ライブ配信などを展開するメディア事業。ポッドキャスト収益だけでも年間 約2,000万ドルに達しているとされています。

つまり、彼は「教授」から「起業家」へ、そして「メディア経営者」へと展開してきた人物なんですね。

『富の方程式』が語っていること

Scott Galloway の著書『一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』は、一見するとお金持ちになるための本に見えます。

実際、本の中ではキャリア、貯蓄、投資、資本主義社会で生きるための現実的な知恵が語られています。

彼の語り口は率直です。きれいごとを言いません。

資本主義社会で生きる以上、お金の力を無視してはいけない。
経済的な自立を持たないままでは、自分の人生を十分に選び取ることは難しい。

そういう現実を、かなりはっきりと書いています。

でもこの本の本質は、単なる金儲けの話ではありません。

私が特に印象に残ったのは、最後の章です。

そこで彼は、亡くなった母親について語っています。

ガンに侵された母親。
最後の時間をともに過ごした家族。
弱り切った母を抱きしめ、母の人生を振り返る息子としての自分。

その記述から見えてくるのは、富の話ではなく、愛の話です。

人生で本当に意味があるのは、すべて他者との関わりにある。

誰かを支えること。誰かに愛されること。誰かを愛すること。
そして、大切な人と時間を過ごすこと。

彼はそう語ります。

でもここは Scott Galloway。甘い理想論には行きません。

愛する人と時間を過ごすためにも、経済的自由が必要だと言うのです。

仕事を休めること。家族のそばにいられること。
必要なときに移動できること。
大切な人のために時間とお金を使えること。

それらは、ある程度の経済力がなければ実現できません。

つまり、彼にとってお金は目的ではありません。
お金は、大切なものを守るための手段です。
お金は自由を得るための手段であり、愛する人との時間を確保するための手段です。

ここに、Scott Galloway の富に対する考え方の特徴があります。

彼は富を崇拝しているわけではない。
しかし、富の力を軽視してもいない。

資本主義社会で人間らしく生きるためには、経済的自立が必要だ。
そのうえで、人生の本当の豊かさは、人との関係の中にある。

この両方を同時に語るところに、彼の面白さがあります。

なぜ彼は Substack に参入したのか

そしてこの Scott Galloway がSubstackに参入しました。
こちらにその経緯や狙いを自ら語っています。

https://on.substack.com/p/scott-galloway-had-the-audience-heres?r=1e0pnc&utm_campaign=post&utm_medium=web&triedRedirect=true

今回の Substack の記事で興味深いのは、Scott Galloway が Substack を単なる「文章を書く場所」として見ていないことです。

彼は明らかに、Substack を事業戦略の一部として捉えています。
彼の Prof G Media はすでに大きなメディア事業です。
ポッドキャスト広告収益は大きく、動画やライブ配信も展開しています。

それにもかかわらず、彼は Substack に本格参入しました。

なぜか。

理由は、収益の質、だといいます。

広告収益は大きな売上を生むことができます。
しかし、広告収益は景気や市場環境、プラットフォームの変化に左右されます。また、企業価値という観点では、広告依存の事業は必ずしも高く評価されにくい。

一方、サブスクリプション収益は継続性があります。

読者が毎月、あるいは毎年、お金を払ってくれる。
これは収益の予測可能性を高めます。
そして企業価値も高くなりやすい。

Scott Galloway は、この点を非常に明確に見ています。
彼は、Substack を「クリエイターのための楽しい場所」としてだけ見ているのではありません。

継続収益を作り、読者との直接的な関係を築き、メディア企業としての価値を高めるための場所 として見ているんですね。

ここに、彼の起業家としての発想がよく表れていると思います。

SNS は本拠地ではない

もう一つ、非常に重要だと思ったのは、彼のプラットフォームに対する見方です。

YouTube。Instagram。TikTok。Meta
これらは巨大な配信力を持っています。
多くのクリエイターにとって、これらのプラットフォームは欠かせない存在です。

しかし Scott Galloway は、そこに全面的に依存することを危険視しています。

なぜなら、プラットフォームのルールは自分では決められないからです。

アルゴリズムが変われば、突然届かなくなる。
収益分配の条件が変われば、利益が減る。
表示の仕方も、次に何を見せるかも、プラットフォーム側が決める。

つまり、そこは自分の土地ではありません。
借り物の土地です。

彼は、プラットフォーム企業について非常に印象的な言い方をしています。

あなたの利益率は、彼らにとっての機会である

つまり、クリエイターが十分に育ち、収益を上げ始めると、その利益の一部はプラットフォーム側に吸収されていく。これが現実です。

といっても彼は、SNS や YouTube を否定しているわけではない。
むしろ活用しています
ただし、それらを最終目的地にはしない。

SNSは入口。YouTubeは発見の場。

しかし、本当に大切なのは、読者や視聴者と直接つながれる場所です。

その一つがニュースレターであり、Substack と位置付けているのです。

「書くこと」は事業になりうる

今回の記事を読んで改めて感じたのは、現代において「書くこと」は、単なる表現活動ではなくなっているということです。

もちろん、書くことには個人的な意味があります。

自分の考えを整理する。世界を理解する。他者に何かを伝える。
自分の内側にあるものを言葉にする。

それだけでも、書くことには十分な価値があります。

しかし同時に、書くことは事業にもなりえます。

読者との関係を築く。信頼を蓄積する。知的資産を蓄積する。
講演、書籍、教育、コンサルティング、コミュニティへと展開する。

この意味で、現代の書き手は単なる writer ではなく、書くことを事業化する、authorpreneur になりうるのだと思います。

この authorpreneurとは、author と entrepreneur を組み合わせた言葉です。

つまり、書き手でありながら、同時に事業家でもある人。

自分の思想、経験、専門性をコンテンツとして育て、それを読者との関係や収益モデルへとつなげていく人、と私は定義しています。

Scott Gallowayは、その代表的な存在の一人だと思います。

彼は本を書きます。ニュースレターを書きます。ポッドキャストで語ります。動画にも出ます。講演もします。

そしてそれらを、単発の活動ではなく、一つのメディア事業として組み上げています。

AI 時代に人間の声はどう残るのか

もう一つ、彼の AI に対する見方も興味深いものでした。

彼は AI を完全に否定しているわけではありません。
リサーチ、整理、データ探索、効率化には使えると見ています。

しかし、創作の中心に AI を置くことには慎重でした。

彼のチームでは、AI で作られたように見える文章や資料は、むしろ評価されないそうです。
なぜなら、読者が求めているのは、整った文章だけではないからです。

読者が求めているのは、人間の判断です。経験から出てくる違和感です。
失敗の匂いです怒りや悲しみやユーモアです。
その人にしか言えない言葉です。

Scott のチームは、AI を「chip」と呼び、人間的な味を「salsa」と呼んでいるそう。
そして、読者が欲しいのは、サルサの方なんだ、と。

Our view is that AI is all chip, no salsa.
And what people want is salsa.

[画像省略:Salsa & Chips]

AIにはチップはある。しかし、サルサがない。
つまり、情報の断片や処理能力はあるが、人間的な味わいがない。

これは、これから文章を書く人にとって非常に重要な指摘だと思います。

AI時代において、ただ情報をまとめるだけの文章は価値を失っていきます。
しかし、その人自身の経験、視点、感情、判断が入った文章の価値はむしろ高まる。

Scott Galloway の発信が強いのは、データだけではないからです。

彼は数字を語ります。
市場を語ります。
企業価値を語ります。

しかし同時に、家族を語り、母を語り、息子を語り、自分の弱さも語ります。

その組み合わせが、人を惹きつけているのだと思います。

私たちは何を学べるのか

Scott Galloway の話から学べることは、単に「Substackを始めましょう」ということではありません。

もっと本質的には、次のことだと思います。

まず、自分の声を持つこと。

次に、その声を継続的に届ける場所を持つこと。

そして、読者との関係を一時的な反応で終わらせず、長期的な信頼へと変えていくこと。

SNSでバズることは、たしかに意味があります
しかし、それだけでは資産になりにくい。

大事なのは、読者がまた戻ってきてくれる場所を持つことです。

Scott Galloway にとって、それが Substack なのだと思います。

そしてこの考え方は、個人で発信する人にとっても大いに参考になります。

note で書く。Substack で書く。LinkedIn で発信する。X で届ける。

それぞれの場所には役割があります。
しかし、すべてを同じように使う必要はありません
入口と本拠地を分ける。
拡散の場所と蓄積の場所を分ける。
短い反応を得る場所と、長い信頼を育てる場所を分ける。

この設計が、これからますます重要になるのだと思います。

書くことと生き方は切り離せない

Scott Galloway の面白さは、最終的にビジネスの話が人生の話に戻ってくるところです。

彼はお金について語ります。企業価値について語ります
サブスクリプション収益について語ります。
プラットフォーム戦略について語ります。

しかし、その根底にあるのは、人生をどう生きるかという問いです。

何のために稼ぐのか。何のために働くのか。誰のために時間を使うのか。
どのような自由を得たいのか。どのような関係を守りたいのか。

『富の方程式』の終盤で、彼は人生の豊かさについて語っています。
それは、贅沢な暮らしの話ではありません。

大切な人と一緒にいられること。
 必要なときにそばにいられること。
  誰かを支える力を持てること。   

― そのために、経済的自由を得ること。

この考え方は、彼の Substack 戦略ともつながっているように思います。

Substack は、単なる収益化の場所ではないんですよね。

自分の声を届ける場所であり、読者との関係を持つ場所であり、自分の時間の使い方を再設計する場所でもある。

おわりに

Scott Galloway を見ていると、これからの知的生産者に求められるものが少し見えてきます。

専門性だけでは足りません。
発信力だけでも足りまない。
個人的な物語だけでもない。
必要なのは、それらを統合する力です。

専門性。経験。人間味。経済感覚。
継続する仕組み。読者との直接的な関係。
それらを組み合わせて、自分の思想を社会に届けていく。

Scott Galloway は、その一つのモデルを示しているように思います。■

参考資料:
Scott Galloway:No Mercy / No Malice

https://www.profgalloway.com/


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初出:note、2026年6月14日。Fabio Caipirinha の恒久アーカイブとして収録(本サイト掲載:2026年10月15日)。原文に掲載されている第三者の画像は、権利上の理由により本アーカイブでは省略しています。原文:https://note.com/proper_clam757/n/n7b968f429c3d

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